「新版 環境とつきあう50話」(森住明弘)

理系・文系の壁を越えて

「新版 環境とつきあう50話」
(森住明弘)岩波ジュニア新書

たき火や犬の糞。
ここから環境ですか?
といいたくなるものを含めて
50に及ぶ切り口。
本書はそこから環境を考える、
いわば環境入門書なのです。

これまで環境保護に関する本は、
どちらかというと
理科(自然科学)の視点から
編まれたものがほとんどでした。
どこまでも理想を追求する考え方です。
本書は人や社会の営み、つまり
社会(社会科学)からの視点も含めた、
現実をしっかりととらえた
議論が為されている点が、
他にない特徴と言えます。

「合成洗剤と石けん」
思想的には
石けんの方が環境によいのです。
しかし、手段としては
数々の不利な点があり、
石けん普及には至りませんでした。
著者グループは、現実的な方法として、
合成洗剤の添加物に着目し、
検討しています。
「添加物使用の是非や、
 選択する場合にも、
 理系だけでなく、
 文系の知識も総合して
 判断することが
 大切であることに気づ」
き、
添加物の検討を始めています。
環境問題はこうした
現実的な着陸点の模索が大切なのです。

「作業所」
牛乳パック回収が、障碍者の作業所の
仕事の価値を高めたといいます。
一方で、牛乳パックのリサイクルは
間違った環境保護運動であるという
専門家の指摘もあります。専門家は
環境保護「思想」という観点からのみ
運動を評価しているのに対し、
作業所では、
ノーマライゼーション「思想」の
達成「手段」として
有効なリサイクルに取り組んでいた、と
分析しています。
この複合的多角的な視点で物事を
考えることが大切だと思うのです。
画一的単眼的な考え方では
視野狭窄を招きがちです。

理系的な見方と文系的な見方。これらを
両方バランスよくできることが、
本当に人間らしい思考力であり、
これこそが「教養」だと思うのです。
学校教育をはじめとして、
ことさら文系と理系とに分ける習慣が
社会に定着しています。
しかし、一部の先進的な高校では、
教養主義を掲げて、そうした区分けから
脱却し始めています。
理系・文系の壁を越えて、
より人間らしい柔軟な視点で
環境問題を考えていきたいものです。

本書は岩波ジュニア新書の一冊。
大人も読むべき価値の高い内容を
中学生から読める平易な文章で
展開しています。
中学校1年生に薦めたいと思います。

※参考までに50の切り口を。
  1 キュウリ
  2 黒い米粒
  3 おひたしと歯並び
  4 消費期限・賞味期限
  5 無洗米とこだわり豆腐
  6 トリ肉
  7 明石のタコ
  8 カキは森が作る
  9 井戸水
 10 水道水
 11 ミネラルウォーター
 12 割りばし
 13 牛乳パック
 14 牛乳パックを回収する
 15 真っ白の紙
 16 トイレットペーパー
 17 ラップとトレイ
 18 ペットボトル
 19 空き缶
 20 びん
 21 買い物袋
 22 合成洗剤と石けん
 23 食べのこし
 24 生ごみ処理機
 25 粗大ごみ
 26 家庭用浄化槽
 27 不快害虫
 28 タバコの煙
 29 ばい菌
 30 インフルエンザ
 31 たき火
 32 壁紙
 33 ケータイ
 34 町の公園
 35 犬の糞
 36 路地尊と打ち水
 37 集中豪雨
 38 屋上緑化
 39 ソーラーパネル
 40 小川
 41 菜の花
 42 コンビニ
 43 ゴミステーション
 44 集団回収
 45 ごみ埋立地
 46 作業所
 47 自治会・PTA
 48 NPO
 49 フィールドワーク
 50 総合学習

(2020.3.10)

Jill WellingtonによるPixabayからの画像

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