「人間と蛇」(ビアス)

人間はいかに自分で自分を縛り上げているか

「人間と蛇」(ビアス/西川正身訳)
(「いのちの半ばに」)岩波文庫
(「百年文庫017 異」)ポプラ社

「蛇ノ眼ハ一種ノ磁力ヲ有シ、
何人ト雖モ、
一度ソノ力ニ捕エラルルヤ、
自ラノ意志ニ反シテ引寄セラレ、
蛇ノ一咬ミニヨッテ
悶死スルニ至ル」。
その一文を笑い飛ばした
ブレイトンは、部屋の片隅に、
怪しげに光る
二つの点を見つけ…。

そんな馬鹿なこと、あるわけがない。
読み手がそう思うように、
主人公・ブレイトンも
そう思っていたのです。
しかし、
ふとベッドの下の暗がりに目をやると、
そこには…、「一匹の大きな蛇が
とぐろを巻いている」。
ビアスの「人間と蛇」です。

〔主要登場人物〕
ハーカー・ブレイトン

…思索好きの男。友人に招かれ、
 野獣園を備えた屋敷に宿泊する。
ドルーリング博士
…科学者。実験室・野獣園・博物館を
 兼ね備えた邸宅を所有する。
 ブレイトンを屋敷に招待する。

私たちが自分の部屋で、暗がりの中に
蛇のようなものを見かけても、
それは目の錯覚だろうと思うはずです。
そして安心してまずは目をこらし、
それが蛇でないことを
確認するでしょう。
現代家屋の中に、大きな蛇が
入り込むなど考えられないからです。

しかし、ブレイトンの部屋に
蛇がいることは、
決して不思議ではなかったのです。
彼が世話を受けている
ドルーリング博士邸は、
野獣園を兼ねていて、通称「蛇の家」と
呼ばれているのですから。

そのまま部屋を出て、
博士を呼びに行けば、
何も問題は起きなかったのです。
でも、ブレイトンは、というより人間は、
ついつい余計なことを
考えてしまうのです。
「おれは勇気ある男だと
 いうことになっている」
「おれともあろう者が
 敵に背を見せていいものだろうか」

で、彼は
蛇の方へ向かっていくのですが、
「膝の関節を軽く折り曲げ、
 右足を心持ち持ち上げると、
 そいつをぐっと
 床の上に突き下した…
 左足の前、
 わずか1インチのところだった」

足が前に進んでいかないのです。
そして手は後ろの椅子をつかんだまま。
顔は真っ青。
完全にビビっているのです。
以後、都合5ページにわたって、
彼が恐怖に支配されていく様子が
克明に描かれています。
彼はどうなったか?
ぜひ読んでいただきたいと思います。
でも、最後に何ともいえないオチが…。

今日のオススメ!

それにしてもここで考えるべきは、
人間はいかに自分で自分を
縛り上げているかということでしょう。
日常生活の中で、
私たちが自分自身の心の弱さに負け、
思うように行動できなかった経験は
一つや二つではないはずです。
知らず知らずのうちに、
蛇に睨まれたブレイトンに
なってしまっていることが
多々あるように思います。

人間の本質を、常に冷笑をもって
見据えている作家・ビアスの
ブラックな一編。
ぜひ夜に読んで下さい。

(2020.3.18)

〔「いのちの半ばに」〕
空飛ぶ騎手
アウル・クリーク橋の一事件
生死不明の男
哲人パーカー・アダスン
人間と蛇
ふさわしい環境
ふさがれた窓

〔「百年文庫017 異」〕
人でなしの恋 江戸川乱歩
人間と蛇 ビアス
ウィリアム・ウィルスン ポー

「百年文庫017 異」ポプラ社

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