真実はどこにあるのか
「月明かりの道」(ビアス/小川高義訳)
(「アウルクリーク橋の出来事/豹の眼」)
光文社古典新訳文庫

「私」が19歳の頃、
父の緊急の電報で郷里に帰ると、
母が何者かに殺されたという。
その日以来、父は人が変わり、
毎日ふさぎ込んでいた。
ある晩、父と二人で
月明かりの道を歩いていると、
父は何かを見つけ、
それに釘付けとなる…。
死を扱ったビアスの短編集。
昨日の「アウルクリーク橋の出来事」は
本書の冒頭に収められていますが、
本作品は最後です。
こちらもやはり
3章立ての作品構成です。
Ⅰ
ジョエル・ヘットマン・ジュニアの証言
殺された女性の息子の語った内容です。
母が何者かに殺された。
父は精神錯乱に陥った。
月明かりの道で何かを見た。
そのまま父は失踪してしまった。
父の行方は杳として知れない…。
Ⅱ
キャスパー・グラッタンの証言
殺された女性の夫が
失踪後に名前を変え、
朧気な記憶を辿ります。
ある不幸な晩に、
妻の貞操を試してみたくなった。
帰りは明日の午後になると言い残して
家を出た。
その晩、家に帰ってみると、
怪しい人影が飛び出してきた。
そんな夢を記憶している…。
Ⅲ
霊媒師ベイロールズによる
故ジュリア・ヘットマンの証言
殺された女性の魂を降臨させた
霊媒師の語った記録です。
夫が外泊していた夜、
恐ろしい予感がした。
夜の化け物がやってきた。
それは一度退いたが、
再び室内に侵入してきた…。
死者を含め、三人の人間の証言によって
一つの真実を浮かび上がらせる。
そして目に見えないけれども
存在している「何か」による恐怖。
本作は「妖物」的アプローチです。
真実はどこにあるのか。
それは読んで確かめてください。
「アウルクリーク」のような
急転直下の「仕掛け」はありませんが、
やはりビアス特有の
ダークな感覚満載の逸品です。
さて、複数の人間の証言によって
真実を浮かび上がらせる手法、
これはもちろん芥川龍之介の
「藪の中」を連想するはずです。
事実、芥川はこのビアスの
「月明かりの道」をヒントに、
「藪の中」を創作したのです。
ビアスを紹介したのが芥川、
ビアス作品を早い段階で訳したのが
江戸川乱歩と岡本綺堂。
関わっている日本の文筆家は
すべて一筋縄ではいかない面々です。
そこにビアスの本質が
見え隠れしています。
(2020.3.19)

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