人の心の中に潜む、差別と偏見の根深さ
「ハンセン病を生きて」(伊波敏男)
岩波ジュニア新書

何度読んでも涙があふれてきて
止まらなくなります。
二つの理由からです。
一つは差別や偏見に対し、
真っ正面から戦う筆者の姿に対する
畏敬の念から、
もう一つは自分で気づけなかった
自分自身の心の中にある偏見に対しての
贖罪の気持ちからです。
私たちの国の負の歴史の一つに
「ハンセン病問題」があります。
特効薬の開発により「治る病気」に
なった(遅くとも昭和36年)にも
かかわらず、強制隔離政策が
とられ続けたハンセン病。
その間違った政策は、
なんと平成8年まで続きました。
私はこの問題に関心を持ってきた
「つもり」でした。
平成13年におけるハンセン病
国家賠償請求訴訟の「勝訴」、
それに続く小泉総理(当時)の
控訴断念と首相談話。
ともに感慨深い気持ちで
ニュースを見た記憶があります。
しかし、その二年後に起きた
アイスターホテル宿泊拒否事件を
今でも忘れません。
元ハンセン病患者を対象とした
熊本県主催「ふるさと訪問事業」に対し、
「他の宿泊客に迷惑がかかるから」という
理由でホテル側が
宿泊を断ったというものです。
その後、元患者の自治会が
ホテル側の形式的な謝罪を
拒否したことから、
元患者を非難するような雰囲気が、
世の中全体でつくられていったことを
記憶しています。
私自身もそのとき「税金を使って
宿泊させてもらうのなら、
多少の不便に目くじらを立てるのは
どんなものか」と、
安易に考えていました。
マスコミの煽り立てるような報道に
接していたからとはいえ、
申し訳ない限りです。
明らかに自分の心の中には
偏見があったのだと、
今ならはっきり認めることができます。
「ハンセン病回復者たちがうつむき、
控えめに暮らしている
かぎりにおいては、
(世間は)この人たちに同情し、
理解さえ示します。
しかし、この人たちが
理不尽な忍従を求められることに
抗議し、普通の国民と同じ扱いを
求めて立ち上がろうとすると、
理解を示すどころか、
激しく拒否し、嫌悪さえします。
社会が容認する枠の中でしか、
その人たちが生きることを
許しません。」
本書のこの一節は、人の心の中に潜む、
差別と偏見の根深さを、
的確に言い表しています。
私の心にも、
ぐさりと突き刺さりました。
本書は、「差別」とは何か、
「偏見」とはどんなものかを考え、
よりよい社会の在り方を考えるための
教科書といえます。
中学生にぜひ読んで欲しい
特別の一冊です。
(2020.4.17)
