それが「文学」なのではないかと思うのです
「小説 天気の子」(新海誠)角川文庫

離島から家出してきた
高校1年生・帆高は、
不思議な能力を持つ少女・
陽菜と出会う。
彼女は願うだけで
晴れ間をもたらすことのできる
「晴れ女」だった。
数日間雨の降り続く東京で、
帆高と陽菜は
「晴れ女ビジネス」を
展開していくが…。
大ヒット映画「天気の子」の、
監督自らがノベライズした小説版です。
映画は見ていないのですが、
前作「小説 君の名は。」
(こちらも映画を見ていません)が
面白かったので、読んだ次第です。
単なるボーイ・ミーツ・ガール小説では
ないのです。
すでに50を越えたおじさんなのですが、
純粋に感動しました。
おじさん的感動部分①
優しいのに突っ走る
キャラクターの主人公帆高
離島からフェリーに乗って東京まで
家出してくる行動力がありながら、
いたって弱気な少年・帆高。
都会に出てきて
おろおろしていたかと思えば、
拾った拳銃をぶっ放したりもします。
キャラクター設定に
甘さが見られると言えば
それまでですが、
この中途半端さがむしろ現実的です。
人間の性格は多面的です。
帆高からは生身の人間の息吹が
聞こえてくるようです。
おじさん的感動部分②
不幸の中で
健気に生きようとするヒロイン陽菜
いつも明るく振る舞い、
帆高を包み込むようにしている
ヒロイン陽菜も魅力的です。
大人に近づきつつある女の子の雰囲気が
漂っています。
しかし終盤では、
彼女は決してそうではないことが
明かされます。
その健気さが、本作品を
味わい深いものにしているのです。
おじさん的感動部分③
帆高をとりまく
弱くもなく強くもない大人たち
帆高を住み込みの
アルバイトとして雇う須賀、
そしてその社員の夏美。
須賀は人生を悟りきったような
描かれ方がされているのですが、
やはり終盤には
人間としての弱さをさらけ出します。
夏美もやはり明るさと強さが
前面に出ているのですが、
ところどころに大人になりきれない
弱さを抱え込んでいるのです。
弱くもなく強くもない、いや、
弱くもあり強くもある
魅力あふれる大人たちが
本作品を彩っているのです。
おじさん的感動部分④
予定調和的ハッピーエンドで
終わらない筋書き
ここが最も大切な部分です。
最後は予定調和的な
ハッピーエンドでは終わりません。
本作品は決して
少年少女の勇気ある行動が
世界を救うといった
ありふれたエンターテインメントには
なっていないのです。
読み手は裏切られた気持ちに
なるかも知れません。
あるいは本当に
この結末でいいのだろうかと
葛藤するかも知れません。
多くの人間が救われないことに
割り切れなさも残るかも知れません。
実際に災害に遭われた方々は
怒りさえ感じるかも知れません。
しかし、それが「文学」なのではないかと
思うのです。
万人が納得する
爽やかな幕切れであるとすれば、
それはただの「娯楽」に過ぎないのです。
読み手に深く
考えさせるからこそ「文学」、
さらにいえば
「純文学」であると思うのです。
本作品は、「純文学」に限りなく接近した
エンターテインメントと
捉えるべきでしょう。
新海誠は本作品で、間違いなく
新しい「小説」を提示しています。
※天気を扱った小説としては、
川端裕人「雲の王」「天空の約束」も
面白かったです。
この二作品はかなり科学的です。
(2020.4.26)

※映画を見てみませんか。
※新海作品を読んでみませんか。