
捕物帳でのネタを、翌年本作品に転用
「銀色の舞踏靴」(横溝正史)
(「血蝙蝠」)角川文庫
(「由利・三津木探偵小説集成3」)
柏書房
映画を観ていた
俊助の頭上に落ちてきた
片方だけの銀色の舞踏靴。
だが、それを
落としたと思われる女性は、
俊助の制止を振り切り、
タクシーに乗り込み
立ち去っていった。
好奇心に駆られた俊助は、
もう一台のタクシーで
後を追う…。
横溝正史の
ご存じ由利・三津木シリーズの短篇です。
「舞踏靴」とは何やら
古めかしい言い方ですが、
昭和14年発表ですから当然です。
常に事件に巻き込まれる三津木俊助。
本作品でも、
劇場の二階席から落下してきた
銀色の舞踏靴を拾ったことから、
事件に巻き込まれる、いや、
事件に突っ込んでいきます。
【事件簿23 「銀色の舞踏靴」】
〔事件捜査〕
由利麟太郎…私立探偵。
三津木俊助…新日報社社会部記者。
等々力警部…警視庁警部。
〔事件関係者〕
白川珠子
…ダンサー。殺害される。銀色の
舞踏靴を贈られていた女性の一人。
名越恭助
…珠子の夫。
河瀬文代
…殺害される。銀色の舞踏靴を
贈られていた女性の一人。
鮎沢由美
…銀色の舞踏靴を贈られていた
女性の一人。銀色の舞踏靴の一方を
劇場二階から落とし、
俊助に拾われる。行方不明となる。
鮎沢慎吾
…由美の父親。頑固な医学博士。
娘が行方不明となり、
由利に相談を持ち掛ける。
桑野夏子
…俊助の記者仲間。婦人雑誌記者。
お君
…新日報社の女中。
〔事件の概略〕
①東都映画劇場二階席から銀色の
舞踏靴が落下、俊助がそれを拾う。
②俊助、落とし主と思われる女性を
追跡するが、軽くあしらわれる。
③その間、劇場では
白川珠子が殺害される。
④俊助、銀色の舞踏靴の販売店を特定、
訪問するも窃盗犯と間違えられる。
⑤河瀬文代、殺害される。
⑥鮎沢慎吾、娘・由美の失踪の件で、
由利に調査依頼。
⑦拉致監禁された由美に、
凶悪犯の魔の手が迫る。
本作品の味わいどころ①
ワトソン役が定着した三津木俊助
このシリーズ、
三津木俊介が単独で登場するときは
それなりに活躍をするのですが、
コンビで登場すると、
なぜかミスばかりしています。
今回も、舞踏靴を落とした女性を追って
事件に突っ込んだのですが、
その女性に軽くあしらわれています。
そして映画館では
その間に殺人が起きていて、
せっかくのスクープを
逃しているのです。
さらには銀色の舞踏靴の出所を
調べに行った靴屋では
泥棒と間違えられる始末です。
完全に引き立て役でしかありません。
でも、それがこのシリーズでの
俊助の役割なのです。
ワトソン役が板についてきたと
みるべきでしょうか。
由利先生を訪れた鮎沢医学博士にも
「ワトソンというところかね」と
見抜かれています。
もっともホームズの相棒のワトソンは、
事件記録の語り手であって、
けっしてミスを連発したり
していないのですが。
本作品の味わいどころ②
シンデレラは殺人に巻き込まれる
片方の舞踏靴を落として
逃げ去ったのですから
まさしくシンデレラです。
そして映画館で殺されていた女性も
同じ舞踏靴を履いていたのです。
それらは見知らぬ人物から贈られた
舞踏靴でした。
さらには舞踏靴を贈られた女性は
もう一人いて、
その女性もすでに死亡していた…。
シンデレラは否応なく
殺人事件に巻き込まれるのです。
本作品の味わいどころ③
恐ろしき美人投票、殺される美女
横溝作品には、美女が次々に
殺されるものがいくつもあります。
金田一シリーズの「獄門島」では、
月代・雪枝・花子の美人三姉妹が
次々に殺害されました。
「悪魔の手毬唄」も、犠牲になったのは
すべて美少女たちです。
本作品で殺されていく
舞踏靴を贈られた女性たちも、
もちろん美女ぞろいです。
それも婦人雑誌の美人投票で選ばれた
「三美人」なのです。
さて、この美人投票で選ばれた三人が
次々に殺されるという設定と
その殺人の動機は、
実は人形佐七捕物帳第一作
「羽子板娘」でも使用されています。
こちらは昭和13年発表。
捕物帳でのネタが、
なんと次の年に舞台を現代に移し、
由利・三津木シリーズで
再現されているのです。
横溝は多作でしたので、
トリックやシチュエーションを
使い回ししている例は他にもあります。
それを見つけるのも
横溝作品を読む楽しさです。
それはともかく、
この由利・三津木シリーズ、
今年(2020年)の夏、
「探偵・由利麟太郎」としてめでたく
テレビドラマ化となるようです
(本作品は「殺しのピンヒール」という
エピソード名で6月30日放送予定)。
なんでも主演の由利役は
吉川晃司だとか。楽しみです。
今後、由利・三津木ものの人気が
一層高まることを期待しています。
そのテレビ化のおかげで、角川文庫から
3月には「蝶々殺人事件」、
4月は「憑かれた女」、
そして今月22日には本書「血蝙蝠」が
復刊します。
角川文庫の横溝作品が、
杉本画伯表紙画で復刊するのは
何よりも喜ばしいことです。
(2020.5.3)
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(2024.10.30)
〔「血蝙蝠」)角川文庫〕
花火から出た話
物言わぬ鸚鵡の話
マスコット綺譚
銀色の舞踏靴
恋慕猿
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X夫人の肖像
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二千六百万年後
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