主人公・ハイジのリーダー哲学
「風が強く吹いている」
(三浦しをん)新潮文庫

ハイジに丸め込まれたような形で
箱根駅伝出場を目指し始めた
竹青荘の十人の大学生たち。
それぞれの練習メニューを
細かく作成しながら、
適確な助言を下すハイジに、
他の寮生もしぶしぶ練習に
参加せざるを得なくなっていき…。
前回取り上げた「風が吹いている」、
エンターテインメントとして
最高の面白さを発揮しているのですが、
もう一つの読みどころは、
主人公・ハイジのリーダー哲学でしょう。
昭和の時代の運動部主将といえば
熱血漢と相場が決まっていましたが、
平成令和のリーダーは違います。
ハイジのリーダー哲学①
根性論ではない冷静な状況判断
「頑張ればできる!」と
根性論を振りかざしても、
今の時代では誰もついてきません。
ハイジは練習でも本番でも、
常に冷静で正確な状況把握を行い、
それをもとに
指示・指導を行っているのです。
ハイジのリーダー哲学②
各自の意思を尊重する個別指導
多数決の結果や集団の論理を、
ハイジは決して押しつけません。
一人一人の意思を尊重し、
その自主性に任せながら、
必要な練習計画を事細かく立て、
力を引き伸ばしていくのです。
全体指導・一斉指導ではなく、
徹底した個別指導を行っているのです。
それでいて、
締めるべきところはしっかりと締め、
毅然とした態度を崩していないのです。
ハイジのリーダー哲学③
強制ではないしなやかな導き
ハイジはメンバーに対して
高飛車な態度に出たり、
何かを強制したりしません。
しかし自由気ままに
やらせているわけでもありません。
常に目指すべき方向をしっかり示し、
メンバーの気持ちを
上手にそれに向かわせているのです。
強制力を発動するのでもなく、
集団の同調圧力を利用するのでもなく、
しかし全員の気持ちを
目標へと向かわせているのです。
これこそが現代のスポーツ集団の
リーダー像の模範であるとともに、
全ての集団の指導者に必要な
資質・能力といえるでしょう。
現代でもなお、軍隊的な指導を
継続している指導者は
少なくないようです。
そうした指導によって苦しんでいる
子どもや選手の姿が度々報じられる度に
心が痛む思いをしています。
本書はそうした意味で、
現代のスポーツの在り方、
リーダーの在り方を
わかりやすく示した
貴重な一冊といえます。
中学校3年生に薦めたいと思います。
※できれば現代の政治家にも
読んで欲しいと思います。
真のリーダー性を発揮しているのが
一国の長ではなく
一部の地方の首長だけというのは、
悲しいことであると同時に
とても不安なことだと思います。
(2020.5.19)
