この教育の時代に戻らなくてはいけない
「戦争の時代の子どもたち」
(吉村文成)岩波ジュニア新書

前回、本書について、
「こうした教育の時代に後戻りしては
いけないという気持ちを
強く持った」という所感を書きました。
それは本書の前半(第1章~第4章)を
読んでのことです。
後半部分(第5章・第6章)は
全く違います。
冒頭16ページにわたる
学級日誌の鮮やかさ。
あの日誌を生徒に毎日綴らせるのは
並大抵のことではありません。
日誌に描かれている絵と文章は、
のびのびと、
見たまま感じたままを描いています。
実は、これは当時の矢嶋校長の、
独特の教育の成果なのだそうです。
根本にあるのは「命をはぐくむ教育」。
学習園での作業と教室での学習を
「ひとつの生命の流れ」として
取り扱う学習であり、
生産・勤労・学科の三つの教育を
組み合わせた「総合教育」と
いえるものです。
土に親しみ、野菜や草花を育てる。
自然や生命に関心を持たせる。
植物の生長を観察し、
記録する習慣をつける。
記録から数理的能力を育てる。
教室の外と内が
しっかり繋がっています。
これはまさしく現行の指導要領にある
「総合的な学習の時間」(以下、総合学習)
そのものです。
詰め込み学習への反省から、
指導要領に盛り込まれ、
20年前からスタートした総合学習。
教科書も手本もなく、
各学校の創意工夫で
発展してきた総合学習。
その原型、いや、そのきわめて高度に
発展・進化した学習の姿が、
今から70数年前に
すでに存在していたのです。
戦時下で様々な制約があった中で、
現代を遙かにしのぐような
教育実践がなされていたことに、
ただただ驚くばかりです。
当時、文部省から
指導主事や教科書編集委員が
派遣されたり、全国から視察が
殺到したりしたとのことだそうです。
なぜそれほどの教育メソッドが
現代に伝えられなかったのか。
なぜ総合学習がスタートしたとき、
この実践記録が紹介されなかったのか。
この驚異的な記録が、戦時下の
子どもたちの生活の紹介としての本の
末尾に埋もれているのは
本当にもったいない限りです。
本書の後半部分だけ独立させ、
内容や資料を追加し、
新たに出版してもらえないかと
思うほどです。
教育は熱い思いの溢れる
この時代に戻らなければ
ならないのではないでしょうか。
(2020.6.3)
