イメージが前作とは大きく異なる
「鉄塔王国の恐怖」(江戸川乱歩)
ポプラ社

「鉄塔の怪人」(江戸川乱歩)
(「江戸川乱歩全集第17巻」)
光文社文庫

怪老人に勧められ、
からくり箱を覗き込んだ
小林少年。そこには
鉄塔から這い降りる
巨大カブトムシの姿があった。
やがて町に
カブトムシの怪物が現れ、
子どもたちを誘拐する。
子どもたちを恐怖の鉄塔王国の
兵隊にするのだと…。
少年探偵団シリーズ第10作。
ここまでくると読む前から犯人は
二十面相と察しがついてしまいます。
いいのです。
このワンパターンが当時の子どもたち
(今の50を過ぎた大人たち)には
受けたのです。
前作「宇宙怪人」のスケールが
異様に大きかったせいか、
作品から受けるイメージが前作とは
大きく異なっています。
前作との大きな相違点①
スケールを縮小、マニアックに
さすがに「宇宙怪人」以上に
スケールを大きくすることは
できなかったでしょう。
やるとすればゴジラ並みの
超大型生物にでも
変装するしかなかったでしょうから。
二十面相もここは路線を変更して、
今回の化け物は「カブトムシ大王」。
スケール縮小に踏み切りました。
そのかわりではないでしょうが、
信州の山奥に鉄塔王国なる要塞を建設、
マニアック路線へとシフトしています。
前作との大きな相違点②
二十面相の考えも幼稚化
今回は二十面相の思想も
大幅に縮小化しています。
いや幼稚化と言っても
いいかもしれません。
前作では「おれたちは、悪ものだ。
だが、戦争というものは、
おれたちの何百倍、何千倍も
悪いことじゃないのか!」と啖呵を切り、
世界平和を掲げた二十面相ですが、
今回は美術品集めどころか、
身代金目的の拉致誘拐です。
しかも現金要求!
さらには明智に勝負を挑むのではなく、
明智の留守の間に小林少年に
ちょっかいを出す始末です。
一体どうしたことだ、二十面相。
前作との大きな相違点③
小林が主役、明智が脇役
したがって、これまでは
明智VS二十面相だったのが、
今回は明らかに
小林少年VS二十面相です。
小林少年が主役で、
明智は脇役に回っているのです。
乱歩が自らの想定する読者層の年齢を
引き下げたとしか思われません。
まあ、読み手である
当時の子どもたちからすれば、
自分と同年代(と感じられる)の
小林少年が活躍する方が、
より感情移入しやすいのは確かです。
大きくイメージチェンジを果たした
怪人二十面相の世界。
二十面相は次作では
一体何に化けるのか!?
※本作品は大人向け作品である
「妖虫」の焼き直しと
言われています。
プロットが多くの点で
共通するのです。
こちらの方も後日
読み直してみたいと思います。
(2020.6.14)
