「サンドリヨンまたは小さなガラスの靴」(ペロー)

斜め上からの視線で見下ろしているかのよう

「サンドリヨンまたは小さなガラスの靴」
(ペロー/村松潔訳)
(「眠れる森の美女」)新潮文庫

彼女は狭い
屋根裏部屋に押し込まれ、
朝から晩まで働かされていた。
お城での舞踏会の日、
継母と二人の姉の着飾るのを
笑顔で手伝う彼女だったが、
三人が出かけた後、
彼女は悲しみに沈む。
彼女は「サンドリヨン」と
呼ばれていた…。

前回に引き続き、
シンデレラのお話です。
こちらはフランスの作家・
ペローの編んだ短い物語です。
シンデレラ(英語)も
サンドリヨン(仏語)も、
どちらも「灰かぶり娘」(暖炉の灰を
かぶっているような身分の卑しい娘)の
意味です。
ちなみにイタリア語では
「チェネレントラ」。
ロッシーニのオペラで有名です。

こちらは極めておとぎ話に忠実です。
ただし、靴をガラス製にして
重要アイテムとして位置付けたこと、
そしてカボチャの馬車のモチーフを
設定したことなどは、
このペローが最初だといわれています。
つまり、私たちが子どもの頃
慣れ親しんだ「シンデレラ」は、
ペロー版「シンデレラ」から
派生したものだと考えられるのです。

童話集の一作として
編まれているのですが、
日本人のイメージする「童話」とは
印象がやや異なります。
アンデルセンやグリムの童話は
辛辣な部分が多いのですが、
それに対してペローは
「冷めている」感じがあります。
それは各童話の終末に付されている
「教訓」の存在です。

本作品にはこう書かれています。
「女性にとって美しさは
 類いまれな宝物で、
 人はいくら嘆賞しても
 飽きることはありません。
 けれども、
 心のやさしさというものは、
 値がつけられないほどの
 価値があり、
 さらにもっと貴重なのです。
 (というふうに、人は
 この話についての教訓を
 垂れるでしょう。)」

カッコ付きの文章は何を言いたいのか?
さらに本作品の場合、
「もうひとつの教訓」まで
ご丁寧に示されていて、
「機知があって、勇気があり、
 生まれがよくて、良識があり、
 そういうものをもっていても、
 それだけでは身を立てることは
 できません。」
とシビアな見解。
どう考えても純朴な子どもに
温かい眼差しを向けているようには
思えません。
ひねくれた大人が斜め上からの視線で
見下ろしているかのようです。

まあ、これが当時の西洋の童話観であり、
ペロー流の創作流儀だったのでしょう。
私たちは存在するものを
自由に楽しむまでです。

印象の異なる
ファージョンの「シンデレラ」と
ペローの「サンドリヨン」、
両者を読み比べてみるのも
面白いと思います。

(2020.6.17)

TréVoy KellyによるPixabayからの画像

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA