舞台は海、シリーズ中屈指の面白さ
「海底の魔術師」(江戸川乱歩)
ポプラ社

「海底の魔術師」(江戸川乱歩)
(「江戸川乱歩全集第17巻」)
光文社文庫

賢吉少年が預かった
鉄の小箱の中には、
金塊の積まれた沈没船のありかが
示されてあった。
父宮田氏は
明智探偵の協力を得ながら、
海底の金塊の
引き揚げ作業に着手する。
しかしその海には、
恐ろしい鉄の人魚が
待ち構えていた…。
江戸川乱歩・少年探偵団シリーズ
第11作です。そろそろネタも
切れてきたかと思いきや、
今回は舞台が海。
シリーズの中でも屈指の面白さです。
本作品の面白さ①
二十面相の新キャラがすごい
登場する化け物は「鉄の人魚」。
「ワニのようなしっぽ」を持つ
「機械のような生きもの」、
「黒い鉄の頭は、人間の倍ほど」もあり、
「大きなくぼんだ目がふたつ」、
「ギラギラ光」り、「口は耳までさけ」、
「するどい牙がはえてい」るのです。
「鉄のゆびのさきには、
ワシのようなするどいツメ」があり、
「背中からしっぽにかけて、
鳥のトサカのような、
動物のタテガミのような、
とんがったギザギザのもの」が
ついているという、際物です。
それだけでなく、魚型潜航艇、
シマダイのような「だんだらぞめ怪人」、
「巨大お化けガニ」と多様です。
まるで「鉄の人魚海賊団」の
様相を呈しています。
当時の子どもたち(私も含め)は、
わくわくして読み進めたはずです。
本作品の面白さ②
沈没船からの金塊引き揚げ
舞台が海なら、
設定はこれしかありません。
沈没船に眠る金塊をどちらが先に
引き揚げるかの攻防が見物です。
賢吉少年の持つ宝のありかを示した
「鉄の小箱」を奪い取るチャンスは
いくらでもあったように
見えるのですが、今回の二十面相は
初動捜査に遅れが見られ、
後手に回った分、機械類を多用した
物量作戦に転じています。
本作品の面白さ③
近頃正々堂々としなくなった二十面相
前作「鉄塔王国の恐怖」で使った
身代金目的の誘拐という、
二十面相とは思われない
せせこましい手段を、
今回も用いています。
八体の鉄の人魚、魚型潜航艇、
だんだらぞめ怪人、巨大お化けガニ、
これだけの機械類を揃えたものの、
サルベージ機能は
一切備えていないという体たらく。
もはや本気で
引き揚げるつもりなどなく、
最初から横取り作戦を
狙っていたのではないかと
思われるくらいです。
例によって人質の賢吉少年は
小林少年と入れ替わり、
明智が部下の一人になりすまし、
内部攪乱をして
二十面相を追い詰めるという
いつものパターンで
物語は幕を閉じます。
わかっているからの面白さなのです。
さあ、少年の心に戻って、
もう一度少年探偵団を楽しみましょう。
(2020.6.21)

【青空文庫】
「海底の魔術師」(江戸川乱歩)