「百面相役者」(江戸川乱歩)

Rが語ったその恐ろしい疑惑とは?

「百面相役者」(江戸川乱歩)
(「江戸川乱歩全集第1巻」)
 光文社文庫

友人Rに連れられていった
芝居小屋。
そこで演じていた百面相役者は、
その名の通り登場する度に
人相が変わり、
女にも老人にもなりきっていた。
帰り道、
Rは「私」を部屋に連れ込み、
百面相役者に関わる
恐ろしい疑惑を語り始める…。

百面相役者とは?
「目や口が大きくなったり
小さくなったりするのは、
まだいいとして、
鼻や耳の恰好さえひどく変るのだ。
僕の錯覚だったのか、それとも
何かの秘術であんなことが出来るのか、
未だに疑問がとけない」くらいの
変装の名手なのです
(冷静に考えれば一人でそんなに
演示分けなくとも、
複数の俳優を使えばいいだけです。
人件費の制約のある
貧乏小劇団だったのでしょうか)。

そしてRが語った
その恐ろしい疑惑とは?
昨今、墓地を掘り返して
死体の首を盗む悪党がいるという
話題に続いて、
その頭部を盗まれた死体の一人の写真を
Rから見せられた「私」は驚きます。
先刻見てきた百面相役者の演じた
顔の一つにそっくりだったからです。
死体の頭を盗んだ下手人は
百面相役者であり、
彼は盗んだ人間の顔の皮を剥ぎ取り、
変装面として
使用しているのではないか?
だとすれば彼は百人もの顔の皮を
剥ぎ取ったのではないか?
何とも恐ろしい疑惑です。

その後の展開は
ぜひ読んで確かめてみてください。
思いもよらぬ大どんでん返しが
待ち構えていて、筋書きどころか
作品のおどろおどろしい雰囲気まで
一気に吹き飛んでしまう大破壊力です。

さて、ここで味わうべきは、
後の乱歩作品につながる
「猟奇性」「変質性」です。
本作品に前後して
「白昼夢」「屋根裏の散歩者」
「人間椅子」等、
「猟奇性」「変質性」の萌芽が見られる
作品が生まれているのです。
乱歩はこのあたりで自分の創作路線を
見出したのではないかと推察できます。

もうひとつの味わいどころは
もちろん「百面相役者」という
発想そのものです。
これが「盗難」とともに
「怪人二十面相」
原形となっていることは
言うまでもありません。
「こんな男が若し
 本当の泥坊になったら、きっと、
 永久に警察の目をのがれることが
 出来るだろうとさえ思われた。」

作中の「私」の感じた印象の通り、
百面相役者のアイディアは数年後に
「怪人二十面相」に結実し、
乱歩の創作の世界で
犯罪を繰り広げるのです。

乱歩の初期作品は実に面白い!
やはり「乱歩に凡作なし」です。

(2020.6.21)

Gerd AltmannによるPixabayからの画像

【青空文庫】
「百面相役者」(江戸川乱歩)

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