イソップとは俺のことかとアイソーポス言い
「イソップ寓話集」(中務哲郎訳)
岩波文庫

夏の盛り、蟻が畑を歩き回り、
冬の食料をため込んでいた。
センチコガネはそれをみて、
何ともしんどいことだと驚いた。
やがて冬になり、
餌がなくなったセンチコガネは
食料を分けてもらおうと
蟻のところへやってくるが、
蟻は…。
「蟻とセンチコガネ」
勘違いしていました。
イソップについて、
私は完璧に勘違いしていました。
まずは生存していた時期です。
イソップは、グリム兄弟、
アンデルセンと並ぶ
三大童話作家という位置付けが
なされているのですが、
生きていた時代は全く違っていました。
アンデルセン(1805-1875)、
グリム兄(1785-1863)、
グリム弟(1786-1859)と
同時代の作家だと思っていましたが、
なんと
紀元前619年~564年頃なのだと。
それも、実在したのは
確からしいのですが、
100%間違いない、というのではなく、
もしかしたら
伝説に過ぎないかも知れないのです。
まあ、紀元前のことですから、
正確な記録など無理なのでしょう。
そして名前です。
「イソップ」とは日本人が
勝手に英語読みした、
間違った通称なのでした。
正しい発音は「アイソーポス」なのです。
そういえば「ギョエテとは俺のことかと
ゲーテ言い」(斎藤緑雨)という
川柳もありました
(ドイツのゲーテも古くはギョエテと
表記されていた)。
加えて「イソップ童話」ではなく
「イソップ寓話」なのだそうです。
寓話(ぐうわ)とは、
「比喩によって人間の生活に
馴染みの深いできごとを見せ、
それによって諭すことを意図した
物語」(ウィキペディアより)です。
しかも寓話作家として
活躍する以前の彼は、
なんと奴隷だった!
なんでも語りがうまかったので
解放されたとか。
「芸は身を助ける」とは
よくいったものです。
さらには現在「イソップ寓話」として
伝わっているものは、
彼のつくったものだけではなく、
それ以前から伝承されてきたものや、
後世につくられた寓話が
多数含まれているとのこと。
アイソーポス自身のものと
証明できる作品は一つもないのです。
よって正確には「イソップ風寓話」と
するべきなのだそうです。
確かにそうでしょう。
あまりにも数が多すぎます。
本書に収録された作品だけでも
全471編。
羊だの狼だのライオンだの蟻だの
鶴だのといったおなじみの動物と、
ゼウスだのアポロンだの
ヘルメスだのといった神様が、
とっかえひっかえ登場して
教訓を垂れていくのです。
どう考えても
一人でつくったとは思えません。
いくら子どものための
道徳的物語といっても、
アンデルセン童話と違って、
今日正面切って子どもたちに薦められる
代物ではありません。
大人がシニカルな笑みを浮かべながら
読むのが正しい読み方でしょう。
※さらに、
「蟻とキリギリス」の物語だと
思っていたものは、なんと
「蟻とセンチコガネ」なのでした。
(2020.6.26)
