「イソップ物語 抄」(福沢諭吉)

それって厳しすぎませんか?

「イソップ物語 抄」(福沢諭吉)
(「日本児童文学名作集(上)」)
 岩波文庫

秋過ぎ冬もはや来り、
蟻の仲間は忙しく、
雨露にさらせる穀物を、
住居の傍に取入れて、
小山の如く積貯へ、
寒さの用意専一と、
共に働くその折から、
夏の終に生残りし一疋の𧑉螽、
飢寒に堪へ兼ね
半死半生の様にて
蟻の家に来り…。
「蟻と𧑉螽の事」

「イソップ童話などの昔話は
ためになるからよく聞くんだよ」と
子どもの頃、教えられました。
保育園で紙芝居を見ながら、
「そうか、キリギリスのように
怠けていてはいけないんだ、
アリのように頑張ろう」と
思っていました。

今、改めてイソップ童話の日本語訳
(それもかの福沢諭吉翁!)を読むと、
「それって厳しすぎませんか?」と
つい言いたくなってしまいます。

読みにくさこの上なしの冒頭の一文は、
「アリとキリギリスの話」です。
福沢翁はこれを
「蟻と𧑉螽(いなご)の事」としています。
大筋は全く変わりません。
問題はその表現です。
イナゴがアリに懇願します。
「君が家に貯えたる
 小麦にても大麦にても、
 唯一粒を恵みて
 この難渋を救い給へ」

アリは答えます。
「誰にもあれ、夏の間に
 歌舞飲食する者は
 冬に至りて餓死ぬべきはずなり」

とりつく島もないアリの言葉は、
まるで役場の窓口を連想させます。
もっと人間らしい対応が
あってもいいのではないかと
思ってしまいます。
明治の時代ですから、
セーフティ・ネットという考え方が
存在しないのもやむを得ないのですが。

また、働かざる者食うべからず、
それは分かります。
しかし、人生を楽しむことを知らず、
ただ生き延びるために働き続ける
アリの論理に、
最近は共感できないのです。
「それで生きているって
言えるのかい?」と、
つい突っ込みたくなります。

「脇目も振らずに働くことが美徳だ」と
信じ込まされ、
いいように労働者が使われてきた歴史が
日本にはあります
(今でもそうですが)。
この手の「教訓」は、もしかしたら
支配階級による平民統制の
手段かも知れないという、
穿った見方もしたくなります。

他に、
「羊飼ふ子供狼と呼びし事」
(おおかみ少年)。
こちらは羊飼いの少年が
「たった一度ついた」嘘のために
「人生を棒に振った」となっています。
よく聞く昔話では、
少年が「何度も嘘をついた」ために、
最後は「狼に食べられる」のですから、
どちらも厳しい結末です。

そもそもこうした非情な世界観は、
イソップの原典がそうなのか、
それとも翻訳した福沢翁の価値観が
そうなのか。
興味深いところです。

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