乱歩を本格的に読み始めるのであれば、迷わずこの一冊から
「江戸川乱歩全集 第1巻
屋根裏の散歩者」
(江戸川乱歩)光文社文庫

ある日、
「私」の机上の二銭銅貨が2つに割れ、
中に暗号文が隠されていることを
見つけた松村。
それを解読した松村は、
泥棒の隠し金を手に入れたと
喜び勇んで帰ってくる。
「俺は君より頭がいい」と
豪語する松村に対し、私は…。
「二銭銅貨」
富田博士邸裏の線路で
夫人が轢死する事件が起こる。
夫人の携えていた遺書から
警察は当初自殺と判断する。
しかし刑事・黒田が証拠を集め、
博士の犯行と断定する。
それに対し
現場近くにいた左右田という男が
それに異議を唱える…。
「一枚の切符」
光文社刊「江戸川乱歩全集」は、
文庫本でありながらほぼすべての
江戸川乱歩作品を
網羅しているという点で、
まさに消費者視点に立った
良心的な出版物だと感じています。
一般の愛好家である限り、
ハードカバーである必要はなく、
書簡集等もなくていいのです。
全30巻を、
コツコツと買いそろえました。
火災で妻を失った北川。
後日彼は、
妻が家から脱出したものの、
誰かと話をした後、
突然燃えさかる火の中に
飛び込んだという話を聞く。
彼は妻を死に追いやった
人物を特定し、その人物に
精神的な打撃を与えようと
一計を案ずる…。
「恐ろしき錯誤」
湯治場で出会った二人の癈人。
戦争で
見るも無惨な姿となった斎藤と、
かつて犯した犯罪によって
心を病む井原であった。
井原はその罪を斎藤に告白し始める。
だが、それを聞いた斎藤の口から、
思いもよらない真実が…。
「二癈人」
刑の執行間近の死刑囚が、
教誨師に語る。
自分はある男を殺し、
その男の金庫から
三万円を盗んだ咎で死刑となった。
しかし、
自分にはもっと深い罪がある。
今から話すことを
私の妻に話してほしい。
私は実の兄を殺した…。
「双生児」
第1巻は大正12年のデビュー作
「二銭銅貨」から
大正14年12月の「接吻」までの
いわば初期作品集となっています。
初期作品と侮るなかれ、
乱歩は初期作品こそ
彩り豊かで多様な作品が
ひしめいているのです。
「私」はD坂にあるカフェの窓から、
向かいの古書店の異変に気付く。
「私」は同席していた
妙な男・明智とともに
古書店を探ると、
そこには店主の妻の絞殺体が…。
「私」は独自の調査の結果、明智が
その犯人であることを確信する…。
「D坂の殺人事件」
金目当てで老婆を殺害した
貧しい大学生・蕗屋。
心理試験の専門家の笠森判事が
事件の担当となったことを
知った彼は、十分な対策を講じ、
その心理試験を乗り切る。
しかし、その完璧すぎる結果に、
明智小五郎が疑問を抱く…。
「心理試験」
「黒手組」と名乗る賊徒の一団が
都下で犯罪を繰り返していた。
「私」の伯父がその被害に遭い、
身代金一万円を渡したものの、
誘拐された娘・富美子が戻らない。
「私」は富美子捜索の件を、
友人の私立探偵・明智小五郎に
依頼するが…。
「黒手組」
何よりも後の明智小五郎シリーズに
つながる初期短編3編が
読みごたえがあります。
この3編で乱歩は
今後の自分の創作路線と
明智の探偵像を確立したのではないかと
思われるのです。