「灰色の巨人」(江戸川乱歩)

化け物に姿を変えない二十面相

「灰色の巨人」(江戸川乱歩)
 ポプラ社

「灰色の巨人」(江戸川乱歩)
(「江戸川乱歩全集第18巻」)
 光文社文庫

東京の有名デパートで
開催されていた美術展会場から、
最も値打ちのある
真珠塔「志摩の女王」が
盗み出される。
犯人は「灰色の巨人」を名乗る
一団だった。その後、
巨人と一寸法師の
盗賊団が暗躍し、
今度は「にじの宝冠」を狙って…。

少年探偵団シリーズ
第12作目「灰色の巨人」。
今回二十面相が姿を変えるのは
「灰色の巨人」。と思いきや、
身長がばかでかい巨人は
中盤であっけなく捕縛され、
単なる下っ端であることが判明します。
二十面相は単に
「灰色の巨人窃盗団」の首領であり、
「青銅の魔人」「透明怪人」
「宇宙怪人」のような「化け物」には
姿を変えないのです。
では読みどころはどこか?

本作品の読みどころ①
前面に出る少年探偵団

前作「海底の魔術師」では、
舞台が東京を離れた海底であったため、
少年探偵団の活躍はお預けでした。
その分、本作品では
少年探偵団が前面に出て大活躍します。
中盤では明智も警察も
少年探偵団に花を持たせようとします。
でも、これでは子どもに事件の捜査を
丸投げしているのでは?
そんな疑問を持ってはいけません。
当時の子どもたちは
この少年たちの活躍に、
胸をときめかせていたのですから
(私もでした)。

本作品の読みどころ②
大人向け作品との関連性

最初に盗まれた真珠塔は、
かつて黄金仮面(正体は
アルセーヌ・ルパン!)が
盗み出したものです。
また悪党の一味として登場する
一寸法師はもちろん「一寸法師」を
彷彿とさせます。
過去の大人向け作品との関連を持たせ、
大人にも興味を抱かせる
しくみになっているのです。

本作品の読みどころ③
「灰色の巨人」の謎

「灰色の巨人」は二十面相の化ける
キャラクターではありません。
では何か?
終盤にその正体がわかるしくみです。
ぜひ読んで確かめてください。

さて、今回も二十面相は
「にじの宝冠」の入手に失敗、
人質作戦に出ます。
これで「鉄塔王国の恐怖」
「海底の魔術師」に次ぐ、
三作連続の人質です。
さらには似たような手口で
明智にアジトへの侵入を許し、
簡単に追い詰められてしまうのです。
どうしたのか二十面相。
ここ三作ほどいいところなしです。

ところで本作発表は
1955年1月から12月(「少年クラブ」)。
「海底の魔術師」も
1955年1月から12月(「少年」)。
さらには「黄金の虎」も
まったく同じ時期に
発表しているのです。
つまり三作品が
並行して書かれたのです。
この年以降、5年ほどの間、
乱歩は少年探偵団シリーズを
毎年三作品ほど並行執筆しています。
何と旺盛な創作意欲。
少年探偵団がヒットしたことの証です。
粗製濫造の感がしないでもありませんが
多くの作品が残されたことは
喜ばしい限りです。

(2020.6.28)

Free-PhotosによるPixabayからの画像

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