「きみの友だち」(重松清)②

立体的に立ち現れる主人公・恵美の実像

「きみの友だち」(重松清)新潮文庫

交通事故で
左脚が不自由になった恵美は、
どうせ跳べないのだからと、
縄跳び大会の回し手に
暗黙のうちに決められてしまう。
もう一人の回し手の由香は
病弱な体質だった。
縄を回す練習をしようと
提案する由香に対して
恵美は…。
「あいあい傘」
 主人公:恵美十一歳

本書「きみの友だち」は、
前回記したとおり、
10篇の連作短篇集となっています。
第1篇と第9篇が恵美を主人公とする
エピソードですが、
それ以外は彼女もしくは
彼女の弟・文彦の
周辺の人物が主人公となっています。

運動、勉強、何をやらせても
一位だった文彦の立場は、
基哉が転校してきてから
変わってしまった。
些細なことから文彦は
基哉に殴りかかってしまう。
自分が悪かったと思いながらも
素直になれない文彦は、
姉の恵美に救いを求め…。
「ねじれの位置」
 恵美十九歳、主人公:文彦十一歳

六年生の女の子・堀田は、
女の子の人間関係を
注意深く観察している。
そして道化を演じながら
敵をつくらないように
周囲に気を遣っていた。
そんな自分に
疑問を持ち始めたころ、
彼女はクラスの女子全員から
無視されるようになる…。
「ふらふら」
 恵美十二歳、主人公:堀田十二歳

成績優秀な文彦は、
サッカーでも大活躍し、
朝礼で表彰される。
かつて文彦と仲がよかったことを
誇りに感じていた三好は、
周囲に彼のすごさを吹聴する。
それを聞きつけ、文彦を
シメようとしている上級生に
言質をとれらた三好は…。
「ぐりこ」
 恵美二十一歳、文彦十三歳、
 主人公:三好十三歳

親友の志保が
戸川とつきあうようになり、
花井は疎外感を感じ、
心因性視力障害に陥る。
目の発作が起こり、
彼女が保健室に駆け込むと、
そこには恵美に付き添われた
由香がいた。
彼女には、由香に対する
恵美の態度が冷たく感じ…。
「にゃんこの目」
 恵美十四歳、主人公:花井十四歳

各篇は時系列に沿ってはいません。
恵美のエピソードと文彦のそれ
(恵美は大学生となっている)とが
交互に現れる構造だからです。
そして主人公をかえることにより、
その主人公の目線で
恵美が描かれていくのです。
この巧妙な仕掛けによって、
恵美という架空の人物が、
立体感を持って
読み手の前に立ち現れてくるのです。

同級生の琴乃に
想いを伝えられない佐藤は、
その鬱憤晴らしに
サッカー部の練習に顔を出し、
先輩風を吹かせていた。
文彦と基哉が入部して以来、
彼はレギュラーを外され、
補欠のまま引退していた。
佐藤は文彦に因縁をつけるが…。
「別れの曲」
 恵美二十二歳、文彦十四歳、
 主人公:佐藤十五歳

入院している由香に千羽鶴を
贈ることを提案した西村。
女子が協力する中、
作業に加わらず
すぐ帰宅する恵美に、
彼女は不信感を抱く。
転校前の学校で
いじめに遭っていた彼女は、
気を遣い、何とかして
周囲に合わせようとするが…。
「千羽鶴」
 恵美十五歳、主人公:西村十五歳

好きだった美紀が、
実は文彦と交際していることを
知った基哉は、
強い敗北感を感じる。
サッカーの市選抜選手も
文彦だけが選ばれ、
二人の関係はぎくしゃくする。
文彦が選抜を辞退する意志を
固めていることを聞かされた
基哉は…。
「かげふみ」
 恵美二十三歳、文彦十五歳、
 主人公:基哉十五歳

九月に入院した由香の容態は
かなり悪化していた。恵美は
由香を失うことを受け止め、
静かに心の準備を始める。
二月の受験の日、
会場へと向かう恵美は、
ふと自分を呼ぶ声に気付き、
「人生でいちばん大切な一日」の
意味を考える…。
「花いちもんめ」
 主人公:恵美十五歳

最後の第10篇は、
それまでのエピソードを統合する
素敵な演出が施されています。
すべての主人公たちが一堂に会します。
そしてこの連作短篇集の
「語り手」も姿を現すのです。

恵美の個展に集まった
文彦・基哉・三好・佐藤・
堀田・花井・西村たちは
思い出話に花を咲かせる。
由香の墓参り後に
到着予定だった恵美は、
泣き顔でくずれた化粧直しに
時間がかかっていた。
恵美は花嫁として
この日を迎えたのだった…。
「きみの友だち」
 主人公:恵美二十七歳

読み終えたとき、
深い感動に包まれる連作短篇集です。
友だち作りに悩んでいる中学生、
そして日々の人間関係に
疲れを感じている大人のあなたに
薦めたい傑作小説です。

(2020.7.21)

PexelsによるPixabayからの画像

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