「百年文庫017 異」

日米恐怖小説合戦の様相を呈しています

「百年文庫017 異」ポプラ社

「人でなしの恋 江戸川乱歩」
並外れた美男子と
結婚した「私」は、
夫が夜更けになると床を抜け、
土蔵に行くことに疑惑を感じる。
闇の中、手探りで梯子段を登り、
聞き耳を立てると女の声が。
でも、土蔵から出てくるのは
いつも夫一人。
夫の逢瀬の相手は一体…。

百年文庫6冊目は「異」。
3編とも「異」な世界です。
日常ではありえない「異」なものが、
日常を壊します。
「人でなしの恋」では「人でないもの」、
「人間と蛇」ではもちろん「蛇」、
そして「ウィリアム・ウィルスン」では
「ドッペルゲンガー」。
それぞれが主人公の生活を翻弄し、
破壊します。

「人間と蛇 ビアス」
「蛇ノ眼ハ一種ノ磁力ヲ有シ、
何人ト雖モ、
一度ソノ力ニ捕エラルルヤ、
自ラノ意志ニ反シテ引寄セラレ、
蛇ノ一咬ミニヨッテ
悶死スルニ至ル」。
その一文を笑い飛ばした
ブレイトンは、部屋の片隅に、
怪しげに光る
二つの点を見つけ…。

日本とアメリカの
怪奇小説文学者3人が一堂に会すると、
これほどまでに「異」が際立つのか!
日米恐怖小説合戦の
様相を呈しています。
それぞれの著者の短編集に
収められているとき以上に、
各作品の持つ恐怖が
倍増しているように感じます。

「ウィリアム・ウィルスン ポー」
放蕩の限りをつくす
名門一族の「私」。
「私」の思うがままの振る舞いを
いつも妨げるのは、同姓同名、
誕生日まで同じ同級生、
ウィリアム・ウィルスン。
寄宿生時代のある夜、
「私」は密かに
彼の寝室に忍び込み、
その顔をのぞき込む…。

さらに作家どうしも
関わり合っています。
「ウィリアム・ウィルスン」は
江戸川乱歩訳(実は名義貸しで
あることがわかっています)。
もともと江戸川乱歩という
ペンネームの由来が
エドガー・アラン・ポーであることは
周知の事実です。また、乱歩は
ビアス作品の翻訳も手がけました。
言ってみれば乱歩と
そのお気に入り作家作品集なのです。

子どもたちにぜひ薦めたい
百年文庫シリーズなのですが、
本書はちょっと薦めるのを
躊躇する一冊です。
でも、大人の貴方になら薦められます。
怖いもの見たさにいかがでしょうか。

(2020.7.22)

Anja🤗#helpinghands #solidarity#stays healthy🙏によるPixabayからの画像

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