金田一耕助の事件簿053
まさに金田一耕助は事件を呼び込む男
「赤の中の女」(横溝正史)
(「金田一耕助の冒険」)角川文庫
海岸のホテルで
静養中の金田一耕助は、
一組の新婚夫婦と
そのそれぞれとの旧知の男女の
邂逅を横目で見ながら、そこに
事件の匂いをかぎ取っていた。
等々力警部が合流すると、
金田一の予感はあたり、
新婚妻が遺体で発見され…。
金田一あるところに事件あり。
静養中の金田一が
事件に巻き込まれるという設定は、
横溝正史のミステリには、
本作品を含め、あまたあります。
まさに金田一耕助は
事件を呼び込む男なのです。
まずは登場人物一覧を。
【事件簿File-053「赤の中の女」】
〔事件発生〕
昭和32年8月(H海岸)
〔依頼人〕
該当なし(捜査協力)
※静養に訪れていたH海岸にて
事件に遭遇
〔捜査関係者〕
等々力警部…警視庁警部。
浅見警部補…所轄署捜査主任。
〔事件関係者〕
榊原史郎
…売れない詩人。
榊原恒子
…史郎の妻。もと新劇女優。
絞殺され、遺体で発見。
安西恭子
…史郎の旧知の女性。
永瀬重吉
…恒子の旧知の男性。
自室で絞殺される。
氏家直哉
…恒子に憎しみの視線を向ける謎の男。
本作品の味わいどころ①
被害者の赤一色の服飾の謎
表題の示すとおり、被害者は
赤一色の姿で目撃されています。
「赤い水着に赤いケープ、しかも、
帽子まで真っ赤」で、
「ホオズキの化け物が
歩いているよう」ですから異様です。
水着姿から着替えても、
赤いワンピースで「赤い弾丸のように」
駆け抜けていきます。
ここに本作品のトリックが
集約されているのです。
本作品の味わいどころ②
単純かつ複雑な人物設定
上に記したとおり、登場人物は
シンプルで、わかりやすいのですが、
妻の恒子が殺され、
その知人も殺害されます。
犯人は夫の史郎なのか?
それとも謎の男・永瀬なのか?
動機は何?
安西恭子はどう絡んでくるのか?
謎を解こうとすれば途端に
複雑化するような人物配置なのです。
本作品の味わいどころ③
犯人は誰?悪人は誰?
取り調べが進むと、
夫の史郎の方に多額の生命保険が
かけられていた事実が浮上します。
むしろ殺される理由は
史郎の方が多かったのです。
犯人は誰?というよりも
悪人は誰?と問いかけたくなる
展開です。
短篇作品ですので、
金田一が名推理というよりも
ほぼ直感に近い形で
地元警察を無視して捜査を行い、
問題なく事件を解決してしまいます。
長編作品では
後手後手に回る金田一ですが、
短篇である本作品は
小気味よく物語は幕を閉じます。
本書「金田一耕助の冒険」全11篇
すべてこの調子ですが、
だからこそ金田一の推理のスマートさが
際立つのです。
※なお、本作品の原形作品として
「赤い水泳着」が存在します。
こちらには金田一は登場しません。
〔本書収録作品一覧〕
「霧の中の女」
「洞の中の女」
「鏡の中の女」
「傘の中の女」
「鞄の中の女」
「夢の中の女」
「泥の中の女」
「柩の中の女」
「瞳の中の女」
「檻の中の女」
「赤の中の女」
(2020.7.26)
〔追記〕
2022年6月、
ついに本書が復刊となりました。
昭和51年に文庫初版が刊行された後、
昭和54年には二分冊、
それも杉本一文装丁ではなくなり、
大変残念な気持ちでいました。
復刊というよりは、今回40数年ぶりの
杉本一文装丁画の復活が
喜ばしいことです。
アイ・キャッチ画像を
新版と変更しました。
旧版は下の通りです。
新版はデザインが
マイナー・チェンジしています。
(2022.6.20)
【金田一耕助の冒険】
【横溝ミステリはいかがですか】
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こんにちは、この作品の原型になっている「赤い水泳着」という作品があるのですが、
それがアガサ・クリスティのある短編とそっくりなんですよ。
まあ、横溝ファンは「偶然の一致」と片付けてますが、横溝先生の頭に軽くクリスティの短編の記憶が残ってたか、意図的な「翻案」だったのかもしれません。
まあ、それが少し騒ぎになったので、だいぶアレンジした赤の中の女を書いたのかもしれませんね。
こんばんは。ありがとうございます。
海外ミステリは詳しくないものですから
初めて知りました。
横溝はクリスティを
かなり意識していたようですので、
頭の中にあったかも知れないし、
また、横溝は初期の頃、翻訳翻案を
大分こなしていますので、
その可能性もありそうですね。
素敵な情報をありがとうございます。
これからもよろしくお願いいたします。