「赤の中の女」(横溝正史)

静養中はスピード重視の金田一

「赤の中の女」(横溝正史)
(「金田一耕助の冒険」)角川文庫

一組の新婚夫婦のそれぞれが、
旧知の異性と再会した。
そしてそれに
憎しみの視線を向ける
もう一人の男。
海岸のホテルで静養中の
金田一耕助は、そこに
事件の匂いをかぎ取っていた。
金田一の予感はあたり、
女が遺体で発見される…。

横溝正史金田一耕助シリーズ
短篇作品です。
本作品の舞台は海辺のホテル。
金田一に最も似合わない舞台…
と思いきや、
「傘の中の女」「鏡が浦の殺人」と、
実は意外にあるのでした。
しかもその二作品同様、
今回も等々力警部と休暇を楽しんでいる
最中に起きた殺人事件です。

【事件簿File-054「赤の中の女」】
〔依頼人〕
該当なし(捜査協力)
※静養に訪れていたH海岸にて
 事件に遭遇
〔捜査関係者〕
等々力警部…警視庁警部(休養中)。
浅見警部補…所轄署捜査主任。
〔事件関係者〕
榊原史郎
…金田一が目撃した新婚カップルの夫。
 売れない詩人。
榊原恒子
…史郎の妻。もと新劇女優。
 水着その他を赤一色で統一している。
 絞殺され、遺体で発見。
安西恭子
…史郎の旧知の女性。
永瀬重吉
…恒子の旧知の男性。
 ホテル自室で絞殺される。
氏家直哉
…恒子に憎しみの視線を向ける謎の男。
「記録者」
…金田一から事件の内容を聞き取った
 人物。
〔事件発生〕
昭和32年8月(H海岸)
〔事件の概要〕
8月5日14時頃
・榊原史郎、安西恭子が再会。
・榊原恒子、永瀬重吉と再会。
・金田一はそれぞれの再会を目撃。
・等々力警部、金田一と合流。
8月5日19時頃
・夫婦喧嘩の末、恒子がホテルを出る。
8月6日朝
・恒子、死体で発見される。
・永瀬重吉、死体で発見される。
 死亡推定時刻は同日午前2時頃。

本作品の味わいどころ①
メイントリックは女の「赤一色」

「赤の中の女」という表題の示すとおり、
殺害された女・榊原恒子は、
赤一色の姿で目撃されています。
「赤い水着に赤いケープ、しかも、
帽子まで真っ赤」
という格好で、
「ホオズキの化け物が
歩いているよう」
ですから異様です。
水着姿から着替えても、
赤いワンピースで「赤い弾丸のように」
駆け抜けていきます。
ここに本作品のトリックが
集約されているのです。
この、赤一色の女
殺害されるトリックこそ、
本作品の第一の味わいどころなのです。
しっかりと味わいましょう。

ところで、「メイントリックは
女の赤一色」と書きましたが、
「赤」という色自体に
秘密があるわけではありません。
この被害者はおそらく常に
「赤一色」のファッションで通している
関係で、そこを犯人に
つけこまれたということなのです。
ぜひ読んで確かめてください。

本作品の味わいどころ②
殺人犯は誰?いや、悪人は誰?

短篇ゆえに登場人物はシンプルです。
新婚カップルの妻の恒子が殺され、
その知人・永瀬も殺害されたのです。
犯人は夫の史郎なのか?
その場合、動機は何か?
直前の痴話喧嘩が原因なのか?
しかし、史郎にはアリバイがあります。
そうなると犯人は謎の男・氏家なのか?
登場人物の中では彼一人だけが
疑わしい行動をとっています。
この場合も動機は何なのか?
そして安西恭子はどう絡んでくるのか?
謎を解こうとすれば途端に
複雑化するような人物配置なのです。

取り調べが進むと、夫の史郎の側に
多額の生命保険がかけられていたという
事実が浮上します。
むしろ殺される理由は
史郎の方が多かったのです。
殺人犯は誰?というよりも
悪人は誰?と問いかけたくなる
展開なのです。
この、限られた人物ながら
絞り込めない犯人像こそ、
本作品の第二の
味わいどころとなるのです。
じっくりと味わいましょう。

本作品の味わいどころ③
静養中はスピード重視の金田一

ビーチ・ホテルのあまりの人混みに
うんざりした金田一、
あと二日ほど休んで、
等々力警部と一緒に東京へ帰ろう、
その矢先に起きた事件です。
予定どおりに東京へ帰りたいという
思いが強かったのでしょうか、
本作品の金田一は、
名推理を披露するのではなく、
なんとほぼ直感に近い形で、
地元警察を無視して捜査を行い、
事件を超スピード解決してしまいます。
この、静養中は
スピード重視の金田一の捜査術こそ、
本作品の第三の
味わいどころとなっているのです。
たっぷりと味わいましょう。

INDEX 金田一耕助の事件簿

ふと考えると、
磯川警部と静養しているときは、
ひなびた温泉宿にじっくり腰を据えて
事件にあたる金田一です。
というよりも、
金田一が後手後手に回って
連続殺人を許してしまうという展開が
ほとんどです。
しかし等々力警部と過ごす休暇では、
金田一は先手必勝で
事件を解決してしまうのです。

もっとも、和服姿の金田一の場合、
舞台としては
山奥のひなびた温泉宿の方が
しっくりくるのは確かです。
本作品のように、
海の見えるホテルのテラスで、
和服姿のままオレンジジュースを
飲んでいる金田一など、
想像するだけで吹き出しそうです。
らしくない金田一を、
ぜひご賞味ください。

(2020.7.26)

〔娘のつくった動画もよろしく〕
こちらもどうぞ!

墓村幽の味わえ!横溝正史ミステリー

ぜひチャンネル登録をお願いいたします!

(2026.7.8)

〔本作品の事件はいつ起きた?〕
いくつかの資料をあたると、
本作品の事件発生を
「昭和32年」としているものが多く、
当サイトもそれにならいました。
ところが作中に
事件の起きた8月5日が
「土曜日」であると書かれています。
昭和32年8月5日は月曜日であり、
土曜日なのは昭和25年、昭和36年、
昭和42年なのです。
本作品の執筆年が
昭和33年であることから、
36年、42年といった未来を
描いたものではないはずです。
だとすれば残るは
昭和25年しかありません。
昭和24年11月の「鴉」事件と
昭和25年10月の「迷路荘の惨劇」事件の
間であり、つじつまは合います。

〔本作品の原形作品について〕
なお、本作品の原形作品として
「赤い水泳着」が存在します。
こちらには金田一は登場しません。

〔「金田一耕助の冒険」角川文庫〕
「霧の中の女」
「洞の中の女」
「鏡の中の女」
「傘の中の女」
「鞄の中の女」
「夢の中の女」
「泥の中の女」
「柩の中の女」
「瞳の中の女」
「檻の中の女」
「赤の中の女」

〔追記〕
2022年6月、
ついに本書が復刊となりました。
昭和51年に文庫初版が刊行された後、
昭和54年には二分冊、
それも杉本一文装丁ではなくなり、
大変残念な気持ちでいました。
復刊というよりは、今回40数年ぶりの
杉本一文装丁画の復活が
喜ばしいことです。

(2022.6.20)

〔横溝正史:金田一耕助の事件簿〕

「花園の悪魔」
「睡れる花嫁」
「雌蛭」

〔横溝ミステリはいかがですか〕

おどろおどろしい世界の入り口
Michelle MariaによるPixabayからの画像

【今日のさらにお薦め3作品】

「新青年傑作選集1」
「塔上の奇術師」
「死神の座」

【こんな本はいかがですか】

2件のコメント

  1. こんにちは、この作品の原型になっている「赤い水泳着」という作品があるのですが、
    それがアガサ・クリスティのある短編とそっくりなんですよ。
    まあ、横溝ファンは「偶然の一致」と片付けてますが、横溝先生の頭に軽くクリスティの短編の記憶が残ってたか、意図的な「翻案」だったのかもしれません。
    まあ、それが少し騒ぎになったので、だいぶアレンジした赤の中の女を書いたのかもしれませんね。

    1. こんばんは。ありがとうございます。
      海外ミステリは詳しくないものですから
      初めて知りました。
      横溝はクリスティを
      かなり意識していたようですので、
      頭の中にあったかも知れないし、
      また、横溝は初期の頃、翻訳翻案を
      大分こなしていますので、
      その可能性もありそうですね。
      素敵な情報をありがとうございます。
      これからもよろしくお願いいたします。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA