「際立つキャラクター」という要素が加わります
「河原のアパラ」(町田康)
(「くっすん大黒」)文春文庫
以前のバイト仲間の五郎から、
「一緒に仕事をしてくれ」と
電話がかかる。
その仕事とは…、
五郎の顔見知りが亡くなり、
そのアパートの部屋を引き払い、
遺骨を実家へ送り届けるという
ものであった。
「自分」は渋々引き受けるが…。
以前取り上げた町田康
「くっすん大黒」に収録されている、
もう一つの短編作品です。
奇天烈さに一層磨きがかかった
逸品です。
理不尽な事件は連続するし、
はちゃめちゃでありながら
スピード感のある文体もそのままです。
まるで双子のような両作品(半年の間に
発表された作品ですので
当然なのですが)です。
しかし、本作品はさらに
「際立つキャラクター」という要素が
加わります。
まず主人公「自分」。
一人称で「自分」を使用する作品も
珍しいのですが、
人物像も抜きん出ています。
ファーストフードである
ケンタッキーで食事をするような
無精者でありながら、
店頭で並ぶときには
フォーク並びをするように
心がけている律儀者。
それでいて他の客が
フォーク並びしないのにキレてしまい、
「おおブレネリ」を唱い出す無軌道ぶり。
「自分」のバイト仲間・五郎。
バンドを組んだり
音楽活動のまねごとをしている
若者でありながら、
バイト先はただの立ち食いうどん屋。
そんな賃金の安い
バイト生活でありながら
車はシボレー・アストロ。
二人とも相反する性格を
一つの身体に宿したような
矛盾だらけの人物像なのですが、
それが魅力となり、
今すぐ隣で息をしているような
存在感を覚えます。
もしかしたら現実の私たちも
このような多面性を持っていて
当たり前なのかも知れません。
さらに二人の天敵・はま子。
二人と同じうどん屋のバイトです。
自分はすべて正しく、
周りは馬鹿だと思いこんでいる
自分勝手なおばさんなのです。
出勤途中で猿を買い、
調理場へ持ってくる非常識さに
驚きです。
ニセ津山兄。
五郎の亡くなったバンド仲間・
津山の兄を騙る偽物。
二人にいかがわしい内臓肉の
バーベキューを振る舞う振りをして、
その間にシボレーを盗み出し
姿を消すのです。
ここまで書いてもはや紙面切れ。
理不尽な展開が連続するストーリー、
ロックに似たビート感溢れる文体、
そして卓越したキャラクター設定。
これこそが町田文学の
真の凄さなのです。
(2020.7.29)