二十面相は登場しないのですが…
「黄金の虎」(江戸川乱歩)
(「二十面相の呪い」)ポプラ社
「黄金の虎」(江戸川乱歩)
(「江戸川乱歩全集第18巻」)
光文社文庫
小林・野呂の二少年の前に
現れたロボットは、
大きな屋敷の窓から
中へ侵入していった。
少年たちが邸内に入ると、
ロボットは手足が次々に
闇の中へと消え、
最後に魔法博士が現れる。
魔法博士は少年探偵団に
知恵比べを持ちかける…。
その知恵比べとは、
「黄金の虎」の争奪合戦です。
少年探偵団が隠した「黄金の虎」を
魔法博士が奪い取って保管し、
それを再び少年探偵団が
期限内に見つけ出すというものです。
これまでの少年探偵団シリーズとは
毛色の違う本作品、
最大の特徴は二十面相が
登場しないということです。
二十面相が登場しないのは
「大金塊」以来です。
代役となる今回の相手・魔法博士は、
明智探偵とも旧知の仲の、
雲井良太という「お金持ちの変わり者」。
がしかし、その存在は…。
ロボットの風体で
少年探偵団の目を引きつける。
ブラックマジックの仕掛けで姿を消す。
身近な人でも見破れない変装の名人。
何人もの手下を引き連れている。
犯行時刻を予告する。
懐深く忍び込んで
目的のものを盗み出す。
着ぐるみの黄金の虎の
化け物に扮装する。
何重もの逃走手段をあらかじめ準備。
牢屋付きのアジトを所有している。
とまあ、二十面相そのものなのです。
そのまま二十面相でも
よかったとも思うのですが、あえて
明智と知り合いの変人を起用したのは、
「犯罪」としてではなく
「ゲーム」として少年探偵団と
知恵比べをさせようという
作者・乱歩の意図なのでしょう。
確かに少年探偵団が大活躍します。
尾行あり、捜査あり、
変装あり、追跡あり。
相手が二十面相であれば
小学生に無理をさせるわけには
いかない(小林少年が一人で
担当する)のですが、
ゲームである以上、少年探偵団も
深く関わることができるのです。
そうでありながらも魔法博士の行動は、
不法侵入、誘拐、窃盗、
拉致監禁(小林少年の合意の上では
あるが)と、ほぼ犯罪に該当します。
大人の目線で読み進めると、
もしや本物の二十面相が
雲井良太に化けているのでは?と
深読みしてしまうのですが、
二十面相は最後まで登場しません。
本作品は1955年発表ですが、
翌56年には
そのものずばりの「魔法博士」、さらには
黄金の虎ならぬ「黄金豹」の2作を
同時連載。
本作のアイデアは、そのままやはり
二十面相へと引き継がれるのです。
※雑誌連載当時は「探偵少年」という
表題でしたが、単行本収録時に
改題されたようです。
(2020.8.2)
【青空文庫】
「探偵少年」(江戸川乱歩)