「白蠟仮面」(横溝正史)

乱歩の二十面相と完全にキャラがかぶります

「白蠟仮面」(横溝正史)
(「白蠟仮面」)角川文庫
(「横溝正史少年小説
  コレクション⑤白蠟仮面」)柏書房

怪しげな石膏像を積んだ
トラックの荷からこぼれ落ちた
一粒のダイヤモンド。
それを拾い上げた御子柴少年は
トラックを追跡する。
たどり着いた屋敷を覗くと、
なんと石膏像が動き出した。
その正体は神出鬼没の怪盗・
白蠟仮面だった…。

横溝正史ジュヴナイルシリーズ
以前取り上げた「怪獣男爵」同様、
いくつかの作品に登場するのが
この白蠟仮面です。
変装の名人であり、
老若男女どんな人物にも
変装してしまうという怪盗です。
江戸川乱歩の怪人二十面相と
完全にキャラがかぶります。

【「白蠟仮面」事件メモ】
〔捜査関係者〕
三津木俊助
…新日報社記者。白蠟仮面事件を追う。
御子柴進
…新日報社給仕。探偵小僧という愛称。
木村刑事…警視庁刑事。
等々力警部…警視庁警部。
〔事件関係者〕
一柳鶴平
…宝石王と呼ばれる資産家。
一柳由紀子
…鶴平の孫娘。両親はすでに他界。
花田卓蔵…一柳家顧問弁護士。
山崎…新日報社編集局長。
樽井…新日報社記者。
アリ殿下
…小さな王国の王族の一人。
 青いダイヤモンドを持って来日。
 フルネームはアクメッド・アリ・
 ハッサン・アブタラア。
モハメット
…アリ殿下の従僕。低身長。
夏彦冬彦
…「歌と踊りのふたご」として
 有名となった兄弟。十五歳。
白蠟仮面
…神出鬼没の怪盗。変装の名人。
川北
…白蠟仮面の手下。せむし男。
山下
…白蠟仮面の手下。拳闘家。
 証拠隠滅のため、
 白蠟仮面によって殺害される。
〔事件の概要〕
①御子柴少年拉致事件
②一柳家におけるダイヤ盗難事件
 (未遂に終わるが、
  逃走中、部下殺害事件)
③一柳鶴平・由紀子・御子柴少年
 拉致監禁および殺人(未遂)事件
④青色ダイヤモンド盗難事件および
 御子柴少年拉致事件
⑤上野動物園猛獣解放による迷惑行為

本作品の味わいどころ①
怪人二十面相を凌駕する白蠟仮面

今回の悪役キャラ・白蠟仮面。
どうしても比べてしまうのが
乱歩の怪人二十面相です。
おそらく基本スペックはほぼ同等です。
どんな人物にも素早く変装、
特に二十面相が
刑事たちをだませるくらいに
中村警部に化けるのと同様、
白蠟仮面も等々力警部に素早く変装、
見事に窮地を脱します。
それまで接してきた人の目をも欺く
変装術。その能力は
二十面相に勝るとも劣りません。

「怪人二十面相」

しかし二十面相を
大きく凌駕しているのは、
その基本スタイルです。
白蠟仮面の場合、
顔には「角がはえた、西洋の鬼のような
仮面」を装着し、
「その上にも石膏がなすりつけ」られ、
「肉にくい入るような、
まっしろなシャツやズボンを
着ている」のです。
もし実写化されたら噴飯ものでしょう。

さらに、
手下を可愛がってはいるのですが、
捕まりそうになると
殺害してしまうという冷酷さ、
そして御子柴少年や由紀子を
地下牢のライオンの
餌にしてしまうという残忍さ
(これは失敗に終わる!)も
持ち合わせているのです
(二十面相も小林少年を拉致して
水攻めにしたりしているが、
こちらは怖がらせただけで
殺害目的ではない)。

この、怪人二十面相を大きく凌駕した
白蠟仮面のキャラクターこそ、
本作品の第一の味わいどころなのです。
じっくり味わいましょう。

本作品の味わいどころ②
明智小五郎に匹敵する三津木俊助

そして探偵役の三津木俊助も
明智小五郎ばりの活躍を見せます。
白蠟仮面がアジトにしてしまった
一柳家の別荘に人知れず潜入、
下準備をしての白蠟仮面逮捕など、
明智の手法を踏襲しています。

大人向けの「由利・三津木シリーズ」では
失策を繰り返す三津木ですが、
ジュヴナイルとなると
由利麟太郎のお株を奪う活躍ぶり。
この、明智小五郎に匹敵する
三津木俊助の探偵術こそ、本作品の
第二の味わいどころとなるのです。
しっかり味わいましょう。

本作品の味わいどころ③
小林少年に匹敵しない御子柴少年

そして小林少年と比較されるのが
御子柴進少年です。
ところが本作品における御子柴少年は
災難の連続でいいところがありません。
なんと三度にわたって
拉致監禁されただけではなく、
初回の拉致の際は
一柳家のダイヤ盗難事件の片棒まで
担がされているのです。
これでは小林少年に遠くおよびません。

などと揚げ足取りしていていては
いけません。
本作以外での御子柴少年の活躍は
小林少年にけっして
負けてはいないのです。
むしろ、(旧制)中学を卒業して
新日報社に入社したての
初々しい御子柴少年の姿こそ、
本作品の第三の
味わいどころとなっているのです。
たっぷりと味わいましょう。

さて、本作品が
発表されたのは1954年。
ちょうど乱歩が年一本ペースだった
少年探偵団シリーズの雑誌連載を、
いきなり三つの雑誌に並行掲載して
量産期に入った頃なのです。
二十面相の人気の絶頂期に書かれた
本作品、当時
「パクリだ!」と言われなかったのか、
そして乱歩に
「真似すんな!」と怒られなかったのか、
いささか心配になるくらいです。
それはさておき、
ふんだんに盛り込まれた事件、
心躍るいくつもの冒険、
怪盗一味と三津木・御子柴・警察との
息詰まる対決、
土壇場からのスリリングな逃走劇と、
エンターテインメントの王道を行く
ジュヴナイル作品として
仕上がっているのです。
ぜひご賞味ください。

(2020.8.9)

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墓村幽の味わえ!横溝正史ミステリー

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(2025.2.27)

〔「白蠟仮面」角川文庫〕
白蠟仮面
バラの怪盗
「蛍の光」事件

〔追記〕
柏書房より
「横溝正史少年小説コレクション
第5巻白蠟仮面」が発売となりました。
本作品も原典版としてとして
収録されています。
筋書きに変更はありませんが、
角川文庫版での「だ・である」調の文体は、
実は「です・ます」調であったことが
わかりました。
横溝正史自身の文章が
味わえるという点で、
柏書房版は大きな価値があります。

(2021.10.21)

〔「横溝正史少年小説コレクション
  ⑤白蠟仮面」〕

白蠟仮面
蠟面博士
風船魔人
黄金魔人
動かぬ時計
バラの呪い
真夜中の口笛

バラの怪盗
廃屋の少女
 巻末資料/編者解説

〔「横溝正史少年小説コレクション」〕

〔追記〕
今年(2022年)は、
横溝正史生誕120年&没後40年の
節目の一年でした。
横溝イヤーに合わせて角川文庫より
金田一耕助シリーズと
ジュヴナイル作品がかなりの数、
復刊を果たしました。
しかしジュヴナイルにおいて本作品は
復刊が叶いませんでした
(他には「怪盗X・Y・Z」「姿なき怪人」
「風船魔人・黄金魔人」の計4点)。
残念でなりません。

(2022.12.30)

〔復刊!横溝正史ジュヴナイル〕

おどろおどろしい世界の入り口
SamWilliamsPhotoによるPixabayからの画像

【今日のさらにお薦め3作品】

「堕天使の冒険」
「アルセーヌ・ルパンの逮捕」
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