「閉ざされた時間割」(眉村卓)

現実世界の昨今の状況と重なる部分が多い

「閉ざされた時間割」(眉村卓)
 角川文庫

中学二年生の良平は、
苦手な数学の時間に
突然眠くなり、目覚めると
下校時間になっていた。
意識のないその間、
彼はなんと積極的に質問し、
ノートも完璧にとっていた。
何かが自分に乗り移った?
学級委員の
山形の様子も妙だが…。

本作品の読みどころ①
じわじわと忍び寄る見えざる敵

本作品前半の読みどころは
学校生活で次々に起こる事件です。
何者かに体を乗っ取られていたのは
自分だけではないことに
良平は気づきます。
学級委員の山形、
そして同級生・令子の弟・努、
さらには国語の先生まで。
見えざる敵との戦いが始まるのです。

やがて令子一家が失踪し、
家には「助けて」のメッセージが。
そして山形からは
驚愕の内容の手紙が届くのです。
正体不明の見えざる敵が
じわじわと忍び寄ってくる緊迫感を、
ぜひとも読んで
味わっていただきたいと思います。

本作品の読みどころ②
手に汗握る敵基地脱出

そのまま「ねらわれた学園」
「なぞの転校生」のように
学園内で決着がつくのかと思いきや、
良平一家も拉致され、
敵のアジトに連行されます。
そこには多くの人々が囚われ、
謎の生命体によって
強制労働に従事させられていたのです。
そこからの後半部こそ、
主人公・良平の活躍が光ります。
「なぜ自分は一度きりの憑依で終わり、
乗っ取られなかったのか?」という
疑問を抱いた良平が、
敵の弱点をあぶり出すのです。

脱出不可能とも思われる敵基地で、
良平と我に返った山形が
機転を利かせて脱出および
敵の殲滅作戦を決行します。
強力な敵と対峙した中学生たちが
逆転勝利を収める爽快感を、
ぜひとも読んで
味わっていただきたいと思います。

さて、
表題の「閉ざされた時間割」ですが、
こうした見えざる侵略者たちとの
戦いにより、良平たちの学校生活が
一時的に「閉ざされた」ことを
意味しているのでしょうが、
現実世界の昨今の状況と重なる部分が
多いように感じてしまいます。

世界の学生たちは、
新型コロナウイルスという
「見えざる敵」の侵攻を受け、
休校等による「時間割を閉ざされた」
状態を余儀なくされました。
政治家をはじめとする「大人たち」は
右往左往するばかりで
状況の打開には役に立っていません。
いや、
ここ数日の政権の様子を見る限り、
「立ち向かおうとすら
していない」のではないかと
思われてなりません。
本作品の状況と酷似しています。

もしかしたらコロナ渦を打破するのは、
本作品のように
「若い力の台頭」なのかもしれません。
ぜひとも読んで
判断していただきたいと思います。

※なお、本書には、本作品のほかに
 「少女」「月こそわが故郷」
 「押しかけ教師」の三篇が
 併録されています。

いつも通り家を出た
中学生の青山伸一郎の前に、
奇妙な衣装を着た女の子が現れ、
どこまでもつきまとう。
その女の子は
教室にも現れたものの、
誰にも彼女の姿は見えず、
声も聞こえない。
伸一郎に一日中つきまとった
女の子は…。
「少女」

宇宙開発庁の
建設隊長・ツガワは、
月面都市の建設隊員に
入隊させてくれという
少年・サカタと出会う。
彼は月で生まれたのだという。
ツガワはサカタを入隊させるが、
サカタは体が華奢で
過酷な環境に耐えられそうには
見えなかった…。
「月こそわが故郷」

何をやってもうまくいかない
高校生・真司は、
見知らぬ長髪の青年から
「友達にならないか」と
声をかけられる。
青年は真司の
家庭教師をしたいのだという。
青年は押しかけ家庭教師となり、
真司の成績は
わずか7日間で急上昇する…。
「押しかけ教師」

(2020.8.10)

Axel BongardtによるPixabayからの画像

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