キラキラと派手に輝く「star」ではありません。
「百年文庫051 星」ポプラ社
「ひとり者のナイトキャップ
アンデルセン」
「結婚しない」という条件で
異国の地に赴き、
店番をしながら
一人老いていったアントン。
彼がナイトキャップを
目深に引いて眠る夜、
彼の人生で
消えることのない場面が
静かに浮かんでくる。
彼は若かりし日の
恋の思い出を…。
「父親 ビョルンソン」
息子が誕生したトオルは、
さっそく村の教会へ
洗礼の日取りを相談しに行く。
彼は堅信礼、そして婚礼と、
教会を訪れ
一人息子のために寄進した。
しかしその息子はある日、
船から海へ転落し、
帰らぬ人となる…。
「ともしび ラーゲルレーヴ」
華々しい戦果を挙げていた
十字軍の将軍ラニエロは、
その戦いごとに最善の戦利品を、
聖堂に捧げることを
自らに課していた。
エルサレム陥落の
戦いの褒美は聖火だった。
彼は聖火を、
フィレンツェの聖堂まで
自ら運ぶ決意をする…。
百年文庫32冊目読了です。
テーマは「星」。
といっても、キラキラと
派手に輝く「star」ではありません。
この季節の夜にひっそりと
きらめいているような「星」です。
3篇とも目立たないながらも
誠実に生きている人間を
描いた作品です。
「ナイトキャップ」は
生きるのが下手だった
アントン老人の夢と哀しみです。
アンデルセン特有の
悲劇的な結末ですが、
ナイトキャップにまつわるメルヘンは、
まさに夜空にさんざめく
星々のようです。
「父親」は大切に育ててきた
一人息子の死を、
真っ正面から受け入れ、
それを乗り越えた父親の物語です。
父親の愛情は、
幾多の星々を湛えた
夜空のような深さを感じさせます。
「ともしび」の主人公・ラニエロは
見事に生まれ変わることができました。
英雄から一転、
狂人扱いされたものの、
彼の人間としての内面の輝きは
幾層倍にも増したのです。
3人の作家たちもまた
「星」のような存在です。
アンデルセンは
もはや知らぬ者のない童話作家。
全世界の子どもたちを魅了しています。
ビョルンソンは
日本での知名度は今一つですが、
イプセンとともに
ノルウェーの国民的作家であり、
新文学のリーダーとして活躍しました。
ノルウェー国歌は彼の作詩です。
さらになんとノーベル賞受賞作家です。
ラーゲルレーヴも知られていませんが、
スウェーデンの作家であり、
作品「ニルスのふしぎな旅」が有名です。
女性としてはじめてノーベル文学賞を
受賞した作家です。
読み終えると
心が洗われたと感じることができます。
静かな夜に、気持ちを穏やかにして
一人じっくり読むことをお勧めします。
(2020.8.21)