江國香織はいろいろな形の愛を描く
「綿菓子」(江國香織)
(「こうばしい日々」)新潮文庫
次郎くんはもう遊びに来ない。
夏になったら水泳を
教えてくれる約束をしたのに。
でもそれは
次郎くんのせいじゃない。
次郎くんは三年間もお姉ちゃんの
ボーイフレンドだったのに、
お姉ちゃんが急にお見合いし、
結婚したから…。
江國香織は愛の形を描写する力に
優れている作家だと思います。
本作品もまた、いろいろな形の愛を、
思春期の少女の目を通して
素敵に綴っています。
6つの連作短編集であり、それぞれに
ちょっとちがった形の愛が
描かれています。
「①綿菓子」
「④昼下がり、お豆腐のかど」
2歳年下の大学生・次郎くんではなく、
島木さんと結婚したお姉ちゃん。
それを理解できない
小学校6年生のみのり。
そして次郎くんと島木さんは
実は知り合いであることが分かり、
みのりはさらに混乱していきます。
3人いたって仲良し。
こんな形の愛もあるのです。
「②絹子さんのこと」
親友の絹子さんがなくなって、
おばあちゃんはとても悲しがります。
でも、おばあちゃんから意外な事実が。
「おじいちゃんは、
絹子さんの部屋で死んだのよ」。
おじいちゃんは
絹子さんと愛し合っていた。
でもおばあちゃんは
おじいちゃんも絹子さんも愛していた。
そのことにみのりはまたまたびっくり。
こんな形の愛もあるのです。
「③メロン」
「⑤手紙」
友達の両親は理想的に見えたけど
離婚してしまった。
自分の両親は冷めていて、
ちっとも夫婦に見えないけど、
意外と暖かい関係。
かつて難産で苦しむお母さんに、
これから死ぬまで
メロンを買ってやると約束し、
それを毎年忠実に実行するお父さん。
誕生日プレゼントも買わないのに。
こんな形の愛もあるのです。
「⑥きんのしずく」
中学生となったみのり。
次郎くんからコーヒーを
飲ませてもらうシーン。
なんと口移し。
「目をあけなくてもわかる。
確かに金色だったのだ。
とたんに、
私は全身の力がぬけてしまった。
とろとろとあたたかい液体は、
たちまち私のからだの
すみずみにまでいきわたる。」
何度読んでも、
年甲斐もなくドキドキしてしまいます。
こんな形の愛もあるのです。
そうしたいろいろな愛の形を、
みのりは受け入れていきます。
そうです、
これはみのりの成長物語なのです。
江國香織はいろいろな愛の形を
描ける作家だと思います。
大切なのは、
人は誰かを愛さずには
いられないということなのでしょうか。
※まあ、でも、どうなのでしょう。
23歳の大学生が、
元彼女の妹(中1)を
自分の部屋に連れ込んで、
口うつしでコーヒー飲ます…。
現実はこれで
済みそうもありません。
中学生が読んで、
甘い幻想を抱いて大学生と
つきあったりしたら
大変なのではないかという
心配もあります。
ただ、それを越えて、本書
(「こうばしい日々」+「綿菓子」)は、
思春期の入り口に立った
少年と少女を
生き生きと描いた傑作なのです。
中学校1年生に薦めたい一冊です。
(2020.8.28)