原点回帰した二十面相を読み味わいましょう
「黄金豹」(江戸川乱歩)ポプラ社
「黄金豹」(江戸川乱歩)
(「江戸川乱歩全集第19巻」)
光文社文庫
夜の街に突如現れた黄金の豹。
豹は宝石店から宝石を、
銀行からは現金を盗むが、
その姿は煙のように消え失せる。
さらには人間の言葉を話し、
人々に挑戦する。
豹は次には豹コレクター・
園田氏の所有する
純金の豹の置物を狙って…。
江戸川乱歩の
少年探偵団シリーズ第15作「黄金豹」。
正体はもちろん怪人二十面相です。
読む前からわかりきっています。
本作品の読みどころ①
久しぶりに
まっとうな盗みをする二十面相
これまでの数作品、
世間を騒がせるだけで終わったり、
明智との勝負に徹したり、
身代金目的の誘拐に興じたり、
「怪盗」らしからぬ
所業が続いていました。
今回は大丈夫です。
犯行予告を出してから盗みに入る。
変装して相手の懐深く忍び込む。
大小様々なトリックを使い分け、
捜査の手をを混乱させる。
これぞ二十面相です。
原点回帰した二十面相の怪盗ぶりを
読み味わいましょう。
本作品の読みどころ②
少年探偵団の出番を控えて
明智・小林が前面に
これまでの数作品、
少年探偵団団員が活躍していました。
井上・野呂の二少年、ポケット小僧等々、
一般団員の活躍は
見ていて気持ちがいいのですが、
その分、小林少年と明智の出番が
割を食う形になっていました。
今回は大丈夫です。
明智の出馬前には
小林少年が敵のトリックを暴きます。
小林少年が敵アジトに潜入捜査を試み、
お約束通り虜になります。
明智はそのアジトに密かに潜入し、
二十面相を捕縛します。
原点回帰した明智・小林コンビの活躍を
読み味わいましょう。
本作品の読みどころ③
黄金豹の正体は…、
二十面相だけではなかった
これまで「青銅の魔人」「宇宙怪人」など、
人型の怪人に扮装してきた
(巨大カブトムシという
噴飯ものもありましたが)
二十面相ですが、
今回は黄金豹、獣です。
もちろん正体は二十面相なのですが、
一部、二十面相ではない「何か」が
豹に化けています。
乱歩は作品中で丁寧に
「けっして、人間が豹の皮を
かぶっているものではありません。
あんな細い足の人間なんて
あるはずがありません。
あと足のまがりかたが、
人間では、
あんなになるはずがないのです」と
解説しています。
ここは原点回帰ではなく
新装リニューアルです。
決してワン・パターンと侮るなかれ。
このルーテインが守られるからこそ、
日本人は安心してその作品世界に
浸ることができるのです。
少年の心に戻って
少年探偵団を楽しみましょう。
(2020.8.30)
【青空文庫】
「黄金豹」(江戸川乱歩)