「紅い花」(ガルシン)

寓話?でも、よくわからない部分ばかりです

「紅い花」(ガルシン/神西清訳)
(「百年文庫066 崖」)ポプラ社

精神病院に、強制的に
入院させられた「彼」は、
庭に紅い罌粟の花を見つける。
そして「彼」はその花に
「悪」を見いだす。
「彼」はその花が
世界を滅ぼすと考え、
自らの命を犠牲にしてでも
花を摘み取らなければならないと
考え始める…。

「彼」は看視人の目を盗み、
一つめ、二つめの花の
摘み取りに成功するのですが、
そのために拘束衣を着せられ
独房に隔離されます。
必死の思いで
そこから脱出した「彼」は、
三つめの蕾を引き抜き、
明くる朝、命を終えるのです。

狂人の滑稽な物語、と
読んではいけないのでしょう。
ロシアの文学作品ですから。
寓話とみる必要があります。
でも、
…よくわからない部分ばかりです。

まず「紅い花」ですが、
これは何かの「権力」と考えられます。
「彼」は患者帽の赤十字の赤と
花の紅色を見比べ、
花の色の鮮やかなことを確かめます。
自分を縛り付ける病院の
象徴である「赤」以上に
紅いのですから、
より強く自分を束縛するものと
見立てていると思えるのです。

現代であれば「共産主義」と
考えることは可能です。
紅い色が象徴ですから。
しかし本作品は1883年発表。
この時代は社会主義に
移行する前のロシア帝国時代です。
加えて作者・ガルシンが
自ら志願して露土戦争に
参加していることや、
作品冒頭で「彼」に
「ピョートル一世陛下の御名代として、
余は本癲狂院の査閲を宣す!」と
叫ばせていることを考えるに、
当時の政治権力を批判しているとは
考えにくいのです。

そして「紅い花」は
最初に2つ咲いていました。
彼はそれを2本同時に
摘みとる機会があったにもかかわらず、
一つずつ始末しています。
さらに遅れて現れた3つめの蕾。
これが具体的に何を暗喩しているのか、
見当もつきませんでした。

いや、難しいことは
考えるべきではないのかも知れません。
「彼」は「紅い花」を
「世界を滅ぼしうる悪」と信じ、
その悪から世界を救うために
純真に自分の命を捧げたのです。
「狂気」といってしまえば
それで終わりですが、
そこに純白で気高い魂を
感じずにはいられません。

実は作者・ガルシン自身が
若くして精神疾患に
悩まされ続けていたのです。
精神病院に入退院を繰り返し、
33歳で飛び降り自殺を図り
夭逝します。

もしかしたら精神の健常時に、
不安定期の自分と対峙しながら
編み上げた作品なのかも知れません。
行間から作者の悲痛な叫びが
聞こえてくるようです。

(2020.9.10)

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