「生きていくための短歌」(南悟)

がんばれ!定時制高校生!

「生きていくための短歌」(南悟)
 岩波ジュニア新書

「鉄工所
 僕の仕事はフライス盤
 仕上げの削り幅五〇ミリ」

ん、なんだこの短歌は?
俵万智の新作か?
いやいや、そうではありません。
定時制高校に通う生徒が、
自らの生き方を詠んだ短歌です。

実は短歌の味わい方や作り方の本を
さがしていて見つけたのが本書です。
読んでみたらちがっていました。
でも嬉しい誤算です。
こんないい本に出会えたのですから。

定時制高校は、かつては
昼に働き、夜間学ぶ生徒のための
高校でした。
しかし、いつしか不登校等の理由で、
義務教育段階で
十分に学べなかった生徒の
学び直しの場となってきているのです。
本書には、
その定時制高校に通う生徒の、
一生懸命生きている姿が詠まれた短歌が
ぎっしり収められています。

「定時制 自分の感性育てられ
 勉強苦手も馬鹿にされない」

勉強について行けない、
人間関係作りが下手、
いじめを受けた、…。
さまざまな理由で、
学校に不適応を起こす生徒が
後を絶ちません。
そんな子どもたちの
セーフティ・ネットとしての役割を、
定時制高校は果たしているのです。

「父母の苦労も知らず
 家を出てポリに捕まり臭い飯食う」

非行に走る子どもたちも
少なくありません。
幸いにも私の住む地域では
ほとんど見当たらなくなりましたが、
全国ではまだまだ
自分を見失う子どもたちが
いるのでしょう。
そんな子どもたちにとっても
定時制高校が
最後の救いの場となるはずです。

「面接に次々落ちて夏を越え
 それでも受ける一七社目を」

彼等もまた独り立ちする日のために
仕事を見つけようと努力します。
しかしこの時代、
なかなか就職先が見つからないのです。
こうした状況が改善されるよう、
私たちはもっとこうした問題に
関心を持たなくてはなりません。

定時制高校は、生きるのが
上手でない子どもたちにとって、
人間としての再生をかけた場所、
人間の誇りを取り戻すための場所、
であるということがよく分かります。
彼等に幸せあれと
願わずにはいられません。
がんばれ!定時制高校生!

短歌は、
自分の心を表現する手段といえます。
どの歌も、自分の心に
素直に向き合っているようすが
表れています。
下手な短歌の作り方の
技法の解説などより、
ずっと子どもたちの心に
染みていくはずです。
中学校2年生、3年生あたりに
強く薦めたい一冊です。

(2020.9.15)

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