これもまた源氏物語の一つの世界
「あさきゆめみし4」(大和和紀)
講談社漫画文庫
冷泉院の美しい容貌に
玉鬘は心を奪われ、
宮仕えを勧める
源氏の意向に傾く。
源氏はそれに先立ち、
玉鬘の成人式・裳着を計画する。
玉鬘を訪れた夕霧は、
藤袴を差し出し、
恋情を訴える歌を詠む。
そうした中、
髭黒大将はついに玉鬘を…。
源氏物語の原文を一帖ごとに読み、
そのあとで潤一郎訳や瀬戸内寂聴訳と
照らし合わせて確認するということを、
この一年続けています。
そしてその合間に
この大和和紀「あさきゆめみし」を、
追いかけるようにして
部分読みしています。
この「あさきゆめみし」は
少女漫画のタッチです。
もっぱら男性漫画家の画風に
慣れてきた私にとっては、
人物(女性)の見分けがつかないという
難点はあるものの、
やはり源氏物語の
理解の一助になります。
第4巻は「行幸」から
「若菜・上」前半あたりまでの
内容になっています。
源氏36~47歳の頃、
つまり源氏の栄華の絶頂から
悲劇の始まりまでを描いているのです。
ここまで読んで思うのは、
十分に伝えずにぼやかしている
原文に対して、
曖昧さを残さず100%伝えようとする
漫画の立場のちがいです。
紫式部があえて描かなかったところも、
しっかり補っています。
第4巻ではやはり鬚黒の大将が
玉鬘に迫るところでしょう。
原文「藤袴」の帖では
大将の執拗な誘いを
一切断っていたのに、
次の「真木柱」の帖の冒頭ではもうすでに
既成事実ができているのです。
この帖と帖の間で
紫式部が描かなかった場面を、
本書はしっかり描いています。
さすが漫画です。
もちろん作者が創作して
付け加えたものなのですが、
そうした事実は
十分想像できる(というよりは
それ以外考えられない)ものであり、
また台詞などは前後の文章中の表現を
流用しているため、
極めて自然な流れになっています。
また、最強のお笑いキャラ・
近江の君についても、
本書では幾分丁寧に描かれています。
「真木柱」で夕霧にふられたあと、
何と貴族の生活に飽き、
内大臣の家を出るという展開。
これは源氏物語本文には
存在しない部分です。
玉鬘の引き立て役が終わるとともに、
「若菜・下」以降は
登場しませんでしたので、
中途半端な感じがしていましたが、
漫画では
一つの決着をつけてくれています。
そしてさらに「若菜・下」での、
明石の尼君の幸運にあやかろうとして
「明石の尼君明石の尼君」と
呪文を唱えながら双六をしている場面は
しっかり残してくれています。
近江の君ファンとしては、
何とも嬉しい限りです。
漫画と侮るなかれ。
これもまた源氏物語の
一つの世界なのです。
本書は古典の学習のために
受験生がよく読むといわれていますが、
そんな不埒な読み方を
してはいけません。
源氏物語の一つの世界を
しっかり堪能しましょう。
(2020.9.19)