「いつか世界は一つになる」という理想
「新版 国際機関ってどんなところ」
(原康)岩波ジュニア新書
近年、新聞やテレビのニュースには、
国際機関の略称が次から次へと登場し、
戸惑うことが多くなってきました。
「韓国が日本をWTOに提訴した」
「感染拡大が急速とWHOが警告した」
「処理水放出なら
監視の用意があるとIAEAが発表」。
さて、皆さんはこれらの
「WTO」「WHO」「IAEA」
すべて正確な日本語で言い表せますか。
できなかった方は、
ぜひ本書をお読みください。
本書の特徴の第一は、
数ある国際機関について、テーマを設け、
一つ一つその役割を
丁寧に解説している点です。
そしてそれらの関係が
わかりやすく説明されています。
私の豊富ではない知識が、
繋がっていくのを実感しながら
読むことができました。
新聞にはしっかり目を通す方ですが、
そこから得られる知識が私の頭には
「点」としてしか存在していないことに
気付かされました。
特徴の第二は、各国際機関について、
日本との関わりを
明確にしている点です。
初期の「サミット」での
日本の首相の立場、
「世界銀行」の債務国から債権国へ
転換を果たした日本の軌跡、
「世界貿易機関」での
日本のコメをめぐる攻防、
「ユネスコ」での日本人事務総長の
活躍等々、「何となく知っている」で
済ませてきたことの
何と多いことかと反省しました。
そして本書の最大の特徴は、最終章での、
若い人に向けてのメッセージです。
広い視野から世界を見渡すことの
重要性を説きながら、
まだまだ日本人職員の少ない
国際機関で働くことの魅力を
力説しています。
「平和主義と経済力のプレゼンス、
これが国際社会における
日本の座標軸、
世界における日本の
存在理由でもあるのです。」
「世界のだれからも尊敬される
平和主義をつらぬいてきた
日本の崇高な半世紀の実績を
座標軸にして、
みなさんが海外で
国際人として飛躍し、
さらに世界に根を下ろしていく
時代がきています。」
30年前の高校生の頃、
このように呼びかけられていたら、
私も国際機関で働くことを
目指していたかも知れません(いや、
英語が苦手だったから無理だったか)。
なお、この手の国際関係に関わる
書物全般に言えることですが、
書き手と読み手の立ち位置が
大きく異なる場合、
違和感を感じる部分が出てくるのは
避けられないかも知れません。
特に、朝鮮半島南北分断の遠因に
日韓併合があるというくだりでは、
「自虐的歴史観」の批判が
聞かれそうです。
筆者の考えをそのまま無批判に
受け取るのではなく、
複数の意見を比較検討し、
自分の考えを磨き高めるような
読書習慣が必要となります。
また、「学ぶ」「吸収する」心構えで
接しなければ、
本書は「単なる知識の羅列」と
とらえられてしまう危険も
はらんでいます。
「書かれてあることから
何を読み取るか」という読書の技術も
重要になります。
そうした読み方の難しさを
はらんではいますが、
「いつか世界は一つになる」という
筆者の理想が至るところに
滲み出ている本書を、
中学生にぜひ薦めたいと思います。
※ちなみに冒頭の
「WTO」は「世界貿易機関」、
「WHO」は「世界保健機構」、
「IAEA」は「国際原子力機関」の
略称です。
※参考までに章立ての一覧を。
1 21世紀は国際機関の時代
2 世界平和を守るために
国際連合
国連安全保障理事会
国連平和維持活動
北大西洋条約機構など
3 世界政治・経済の円滑な運営を求めて
サミット
七カ国財務相・中央銀行総裁会議
国際通貨基金
世界銀行など
4 地球規模の豊かさを求めて
世界貿易機関
国連貿易開発会議
5 一つの世界に向けた地域統合のために
欧州連合
東南アジア諸国連合
北米自由貿易協定
アジア太平洋経済協力会議
6 かけがえのない地球を守るために
国際原子力機関
国連環境計画
世界保健機関
国連食糧農業機関・
世界食糧計画など
7 地球規模の共生のために
ユネスコ
ユニセフ
国際赤十字・赤新月社連盟
8 人間らしい生き方を求めて
国連難民高等弁務官事務所
国際刑事裁判所
国際司法裁判所
国連人権理事会など
9 国際機関で働こう
広い視野から世界を見渡す
使命感をもつ
めざすコースを探す
(2020.9.23)