「ぼくのおじさん」(北杜夫)

40年ぶりに出会った懐かしい一冊

「ぼくのおじさん」(北杜夫)新潮文庫

小学校6年生の「ぼく」の家には
居候の「おじさん」がいる。
一応、大学の講師だが
ぐうたらでだらしがない。
その「おじさん」について
「ぼく」が書いた作文が、
ハワイ旅行に当選する。
「おじさん」は厚かましくも
保護者として同伴するが…。

4年前に突然映画化された
北杜夫「ぼくのおじさん」。
私が小学生の頃、図書館で借りて
読んで夢中になった記憶があります。
昭和50年代前半のことです。
私の記憶ちがいでなければ、
文庫本ではなく、
ハードカバーだったはずです。
昔と変わらぬ(はずの)
和田誠のイラストの表紙を見た途端、
あらすじが頭の中に浮かんできました。
40年近く前に読んだきりなのですが。
ダメなおじさんを観察し、
軽く軽蔑するとともに、
しっかり見守っている「ぼく」。
小学生の頃、
読みながら自分が「ぼく」と同化し、
自分が成長したような
気になっていたのを思い出します。

今の世の中であれば、このおじさんは
「自立できない大人」
「引きこもり一歩手前」
「パラサイトシングル」などと、
散々なイメージで
語られることでしょう。
しかし本書ではどこまでも明るく
おおらかに描かれています。
自立できていなくても貧しくても、
明るくたくましく生きているのです。
恥の書きっぱなしなのですが、
そんなことにめげずに
しっかりと生きているのです。
これもまた大事な「生きる力」なのです。

その「生きる力」を育む学校教育では、
道徳の教科化が
新指導要領に盛り込まれ、
授業では昨年度からすでに
道徳の教科書が使用されています。
文科省では、
その道徳の教科書の掲載内容として
「過去の偉人の伝記等」を
示しています。

でも、偉い大人の立派な姿を提示して、
子どもたちが
どれだけ共感できるのでしょうか。
むしろ本書のおじさんのような、
かっこわるい大人の物語
(今の言葉でいうならば
「しくじり先生」か)から、
人の生き方の何かを学ぶことの方が
重要なのではないかと思うのです。
そして偉くなくても立派でなくても
人は生きていくことができることを
教えるべきだと思うのです。

小学校5年生から中学校1年生くらいに
薦めたいと思います。
学校図書館に
ぜひ置いていただきたい一冊です。

※おじさんのモデルは
 作者北杜夫その人なのだそうです。
 再読して初めて知りました。

※映画化される前は
 長らく絶版状態が続いていて
 (平成に入ってから
 再版されていないと思われる)、
 2015年に中古本を探して
 ようやく(やや高値で)
 入手できました。
 その半年後にまさかの映画化発表、
 そして改版再発行。
 うれしいやら悲しいやらでした。

※2020年10月現在、再び絶版中。

(2020.10.7)

Toshy091さんによる写真ACからの写真

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