「あしながおじさん」(ウェブスター)

超一級の「書簡体小説」「成長物語」「恋愛小説」

「あしながおじさん」
(ウェブスター/松本恵子訳)
 新潮文庫

孤児院の少女・ジルーシャは、
十七歳のある日、
幸せを手にする。
月に一度、学生生活のようすを
報告する条件で、
大学に通わせてくれるという
紳士が現れたのだ。
彼女はその紳士を
「あしながおじさん」と名付け、
手紙を書き続ける…。

「あしながおじさん」。
誰もが知っている書名です。そして
誰もが大まかには知っている
筋書きです。
でも同時に、
誰もがしっかり読んだことのない
作品の一つではないでしょうか。
特に男性にとっては。
いかにも女の子向けの作品ですから。

〔主要登場人物〕
ジルーシャ・アボット

…孤児院で17年間育った少女。
 「あしながおじさん」によって
 大学進学を果たす。
「あしながおじさん」
…ジルーシャに大学進学の援助をした
 匿名の篤志家。
 ジョン・スミスという仮名を使う。
グリグス
…「あしながおじさん」の秘書。
サリー・マクブライド
…ジルーシャの同級生。気さくな性格。
ジュリア・ルートレッジ・ペンデルトン
…ジルーシャの同級生。
 ニューヨークの名門の女の子。
ジャーヴィス・ペンデルトン
…ジュリアの叔父。背の高い紳士。
センプル夫妻
…ジルーシャとジュリアが
 一夏を過ごした
 ロック・ウィロー農園主夫妻。
パターソン
…ジェルーシャが三度目の夏に
 家庭教師として訪問した家庭。
リペット
…ジルーシャの育った孤児院の院長。

本作品の味わいどころ①
明るくなれる書簡体小説

大学進学が決定するまでの顛末を
紹介した最初の数頁以外、ほぼ全編、
ジルーシャから「あしながおじさん」へ
宛てた手紙文で構成されています。
いわゆる書簡体小説です。
この書簡体小説は、
自分の内面の苦悩や暗闇を
悶々と告白するものが多いのです。
ゲーテの「若きウェルテルの悩み」しかり
太宰治の「トカトントン」しかりです。
しかし本作品はそうではありません。
十七歳から二十一歳にかけての
ジルーシャの瑞々しい情感が迸る、
読んで明るくなれる
書簡体小説なのです。

彼女の四年間の大学生活、
そして彼女の身のまわりに起きたこと、
さらには彼女の感情が、
手に取るように伝わってきます。
生まれてからずっと
孤児院で活してきた少女の、
すべてを新鮮に受け止める
無邪気な素直さが
前面に押し出されているのです。

本作品の味わいどころ②
少女の「内面的」成長物語

しかしそれだけではありません。
次第に内面的な成長を見せ、
彼女の視線が外の世界へと
向かうようすが描かれているのです。
丹念に読み込むと、その目線の先には
「女性の地位向上」
「格差社会に対する批判」
「平等社会への希求」
「学びへの啓蒙」
「教育の在り方」
「社会福祉の在り方」
「当時の社会情勢」など、
きわめて今日的なテーマが
広がっているのです。

彼女自身も、
優秀な成績を収めることによって得た
「大学からの奨学金」、
そして著作が出版されたことによる
印税収入などによって、
あしながおじさんから
少しずつ独立を果たしていくのです。

本作品の味わいどころ③
ミステリ風味の恋愛小説

ジルーシャは、
正体を隠したあしながおじさんに
毎夏会っているのですが、
そのやりとりもまた秀逸です。
一夏目は
「ただのお金持ちのお坊ちゃん」、
二夏目は親しく遊びに行く「友人」、
三夏目で心惹かれる「恋人」、
四夏目には「なくてはならない人」と
なっているのです。
そして最終場面で正体が明かされる
「あしながおじさん」。
このミステリ・タッチの
恋愛小説であることが本作品の
最大の味わいどころといえるのです。

そのときどきの彼女の感情の変化が、
手紙の文体に鮮やかに表されていて、
あたかも実在している少女の手紙を
読んでいるかのような
つくりになっているのです。
本作品は超一級の「書簡体小説」であり、
「成長物語」であり、
「恋愛小説」なのです。

中学生に読んでほしい
一冊であるとともに、
大人が読んでも十分に楽しめる
逸品です。
「名作」とはそのようなものなのです。
騙されたと思って、
ぜひご賞味ください。

※現在、新潮文庫からは
 本書の松本恵子訳に代わり、
 岩本正恵訳が
 新訳として登場しています。

※作者ウェブスターは本作を
 1912年に発表した4年後の1916年、
 女児を出産した後に
 39歳の若さで亡くなりました。

(2020.10.13)

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