「花園の悪魔(作品集)」「首(作品集)」(横溝正史)

旧版新版で表題と表紙の異なる作品集

「花園の悪魔(作品集)」「首(作品集)」
(横溝正史)角川文庫

東京近郊のS温泉に併設の
花園で発見された
一糸纏わぬモデル・
アケミの絞殺死体。
現場の遺留品から、犯人は
アケミと交際のあった青年・
山崎欣之助と警察は断定する。
それから一月が経過し、
犯人が見つからない中、
金田一は…。
「花園の悪魔」

本書には「花園の悪魔」(1954)
「蠟美人」(1956)
「生ける死仮面」(1953)
「首」(1955)の
4編が収録されています。
昭和50年初頭に巻き起こった
横溝ブームにあおられて
角川文庫が同じ年代のものを
寄せ集めて編んだような形ですが、
それぞれが特徴的な味わいを持ち、
金田一耕助の活躍を楽しめる
作品集となっています。

法医学界の異端・畔柳博士は、
白骨死体から蝋で肉付けをする
「復顔術」を行うと
マスコミに発表、
センセーショナルを巻き起こす。
完成した蝋人形は、
百貨店で開催される防犯展覧会に
出品されるという。
除幕され姿を現した人形は…。
「蠟美人」

それにしても横溝作品で殺害される
被害者は気の毒です。
遺体をもてあそばれることが
多いのですから。
「花園の悪魔」では、
美人モデルが全裸のまま
花園に横たえられ、
「蠟美人」では死体が陵辱されます。
「生ける死仮面」では
バラバラに切り離され、
「首」では切断された首が
岩の上に晒されます。
その異様さが横溝作品の
おどろおどろしさに
つながっているのです。

巡査が異臭漂う画室を
覗いてみると、そこには
腐乱死体の傍らで
デスマスクを手に嗚咽する男が。
男は男色家で、
死体は愛した少年のものであり、
死因は病死であることが判明。
警察は死体損壊事件として
扱うが、金田一は…。
「生ける死仮面」

ただし、この作品集、
角川文庫旧版では「花園の悪魔」が
表題となっていましたが、
新版では「首」に改められています
(収録順も変更されています)。
確かにこの4編の中では
「首」が最も秀逸な作品であることに
間違いはありません。

金田一が訪れた山間の温泉地には、
約三百年前、
村の実力者が殺害され、
首が晒されていた「獄門岩」、
胴体が流れていた
「首なしの淵」があった。
そして一年前にも宿の婿が
同様に殺害されていた。
村では祟りだと噂されているが…。
「首」

しかしながら、
「首」だけが磯川警部の登場する
「岡山もの」であるのに対し、
他の3編は等々力警部と組んだ
「東京もの」です。
そう考えると本作品集の代表作は
やはり「花園の悪魔」なのではないかと
思うのです。

そう思いながらも、
新版の表紙の杉本一文画伯の装丁画は
魅力的です。
1996年に改版されたときには
僅かなスペースに
収められただけなのですが、
2012年の横溝正史生誕百十周年に
再版された際は、
これがトリミングなしでの
フルスペース装幀でした。
残念ながら入手できませんでした。
次の生誕百二十周年で
再版出版されることを
切に願ってやみません。

(2020.10.25)

press 👍 and ⭐によるPixabayからの画像

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA