「畸形の天女」「女妖」(江戸川乱歩)

想像が膨らむ愉しさの方が勝っています

「畸形の天女」「女妖」(江戸川乱歩)
(「江戸川乱歩全集第16巻」)
 光文社文庫

貿易会社社長・宮城圭助には
松永昌吉という
もう一つの顔があった。
総入れ歯を変えることにより
輪郭を変化させ、
身につける物をすべて交換し、
別人になりきるのだ。
昌吉となった彼は、
「畸形の天女」の待つ世界へと
出かけていく…。
(「畸形の天女」)

この世に愛想を尽かして
自ら命を絶とうとしていた
青山浩一は、
美しい婦人から声を掛けられる。
ヒトミという名のその女性は、
明晩9時ちょうどに
来て欲しいと、
浩一に部屋の合鍵を渡す。
約束の時間、
彼が部屋の扉を開けると…。
(「女妖」)

昭和28年、29年に
相次いで執筆されたこの二作、
実は複数の作家による
連作企画の作品の、
乱歩執筆の初回分なのです。
「畸形の天女」は乱歩の後を受けて
大下宇陀児、角田喜久雄、木々高太郎が、
「女妖」は香山滋、鷲尾三郎が、
書き綴っているのです。
したがって本書に収録されている
乱歩執筆分は、
殺人事件が起きるのですが、
そこで終了し、
完結はしていないのです。
しかしながら、
推理小説としての面白さを秘めた
未完作品となっています。

【主要登場人物】「畸形の天女」
宮城圭助(松永昌吉)
…貿易商社社長。
 変装し、松永昌吉として振る舞う。
北野ふみ子
…畸形の天女。16歳の少女。
 松永昌吉を慕う。
斎田五郎
…ふみ子につきまとう。

【主要登場人物】「女妖」
青山浩一
…叔父の金を盗み、使い果たし、
 自殺を考えている。
相川ヒトミ
…浩一に声をかけた謎の女。
五十前後のデブデブ肥った男
…アパートの一室で
 瀕死の状態になっていた。

両作品の読みどころ①
主役男性は現実逃避

現実から離脱し、
どこへ逃避したかを突き詰めると
面白い共通点が見つかります。
圭助は別人となって体感する世界を
「母の胎内のように懐かしい」と
感じます。
浩一はヒトミに
「ぼく、あなたのからだの中へ
はいりたい」と訴えかけます
(かなり異常な告白なのですが)。
両者とも
子ども返りを望んでいるのです。

両作品の読みどころ②
素敵な女性が男を誘惑

圭助が「畸形の天女」と呼ぶ
十六歳の少女・ふみ子は、
初対面の圭助を誘って
一夜をともにします。
浩一もまた、
裕福で美貌のヒトミから
思わず声を掛けられ、
誘われるがまま
部屋までついて行ったのです。

両作品の読みどころ③
当然、殺人事件に巻き込まれる

圭助は、突然乱入してきた青年を、
ふみ子とともに
殺害する羽目になります。
浩一は、部屋の扉を開けた途端、
血まみれの男を発見、
さらにはその男に懇願され、
とどめを刺すことになります。
殺人事件に巻き込まれる、というよりは
殺人事件に加担してしまうのです。

もしかしたら、
他の作家たちによる続きを読むよりも、
この乱歩執筆分から
その後の筋書きを想像することの方が
楽しいような気がします。
圭助とふみ子は
この窮地をどう切り抜けるのか、
身元がばれてしまうであろう圭助は
どんな運命をたどるのか、
ふみ子は本当に
天使のような存在なのか。
見事にはめられた浩一は
どんな末路をたどるのか、
自殺を考えていた浩一は
立ち直ることができるのか、
ヒトミはどのように
浩一と関わってくるのか。
完結しないもどかしさよりも
想像が膨らむ愉しさの方が
勝っています。

さすが乱歩、作品の冒頭部分だけでも
十分読みごたえがあります。
作品全体を収録した本は絶版中ですが、
乱歩執筆分だけなら
本書で読むことができます。
ぜひご一読を。

「江戸川乱歩全集第16巻 透明怪人」
 収録作品一覧

透明怪人
怪奇四十面相
宇宙怪人
畸形の天女
女妖

(2020.11.4)

Enrique MeseguerによるPixabayからの画像

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