未練がましい二人の男の姿
「源氏物語 竹河」(紫式部)
(阿部秋生校訂)小学館
髭黒が亡くなった後、
玉鬘は娘の結婚問題に
頭を悩ませることになる。
長女大君は、
帝からも冷泉院からも
求婚されるが、玉鬘は
院の妃とすることに決める。
しかしそれは帝の不興を買い、
薫や夕霧の息子・蔵人の少将の
失望を招く…。
源氏物語第四十四帖「竹河」。
ここでの読みどころは
「未練がましい男」でしょうか。
玉鬘の周辺の未練がましい
二人の男の姿が描かれています。
未練がましい男の一人目は、
玉鬘を諦めきれない冷泉院です。
若かりし頃の玉鬘は源氏の秘蔵娘として
名を馳せていました。
その美貌の噂に
引く手あまたの状態でしたが、
髭黒大将(当時)が
強引に奪ってしまったのです。
もともと源氏が入内させるつもりで
準備していたのですから、
当時の冷泉帝は
心穏やかならざるものがあったのです。
当時玉鬘二十三歳、
冷泉帝十九歳でした。
この「竹河」の帖は、
それから二十年以上が過ぎています。
冷泉院は四十路をすぎても
四つ年上の玉鬘に
思いを残しているのですから
未練がましいことこの上ありません。
そしてその娘をもらい、
子を成しているのですが、
それでもなお
玉鬘が院と距離を置いていることに
不満を持っているのですから
なおさらです。
未練がましい男の二人目は、
軟弱な三代目・蔵人少将です。
大君の冷泉院への輿入れに
打ちのめされた蔵人少将。
彼は夕霧の息子であり、
源氏の孫なのです。
恋愛上手だった祖父・源氏、
堅物だったが粘り強い父・夕霧に比して、
三代目はなんとも軟弱です。
「死んでしまいたい」と周囲に嘆き、
母・雲居雁に泣きつくのですから。
その雲居雁には
過保護な母親の姿が見られます。
息子の嘆きを手紙に綴って
玉鬘に送りつけ、
さらには代わりに妹・中の君を
嫁にくれるよう暗に要求するのです。
まるで現代の家庭を
見ているかのようです。
こうした玉鬘の周辺を描きつつ、
本帖は「匂兵部卿」「紅梅」とともに
「雲隠」から宇治十帖までを繋ぐ役割を
担っています。
しかし本帖の位置づけは、
これまでとはやや異なります。
時系列から考えると明らかに
前帖「紅梅」よりも先に位置し、
「匂兵部卿」そして次帖「橋姫」と
重なるのです(時系列上の重なりは
これまでもいくつかに
見られてはいるのですが)。
そして筋書きの中心に存在しているのが
玉鬘であることを考え合わせると、
本帖は玉鬘十帖の
後日談と考えるべきでしょう。
源氏物語の大舞台は
いよいよ宇治十帖へと
突き進むことになります。
(2020.11.7)