「奇蹟」を呼び起こすもの
「小さな奇蹟」「ルドミーラ」
(ギャリコ/矢川澄子訳)
(「スノーグース」)新潮文庫
孤児・ペピーノは、
相棒であり唯一の財産である
驢馬・ヴィオレッタとともに
暮らしている。
そのヴィオレッタは
病気にかかり、
次第にやせ細っていった。
獣医さえも見放す中、
霊廟に連れて行くと
治るという話を聞き、
ペピーノは…。
「小さな奇蹟」
「弱虫の牝牛」は、
貧弱な体ゆえ乳に乏しい。
でもこの牝牛には夢があった。
それはいつの日か量も質も
一番の乳を出し、
最高の牝牛として
祝福されることだった。
かなうはずのない夢であったが、
牝牛は聖ルドミーラに
祈っていた…。
「ルドミーラ」
以前取り上げた
ギャリコの「スノーグース」に
収録されている二篇です。
こちらも心温まる童話です。
共通しているのは「奇蹟」でしょうか。
ペピーノはヴィオレッタを救うために
奔走します。
ヴィオレッタを
霊廟に連れて行って祈れば
治るに違いないと思いこんだ彼は、
霊廟の僧侶に頼み込み、
断られると次は知り合いの神父、
次は聖堂の執事、
次は法王庁の衛兵、
次は…、とくり返し、しまいには
ローマ教皇との面会に成功し、
教皇の確約を取り付けます。
一方、「牝牛」は、
貧弱な体でありながらも
いつかは最高の乳牛になりたいという
願いを一途に持ち続けていました。
そしてその願いを叶えさせるため、
聖ルドミーラの像に祈り続けた
(牛ですから
見つめ続けただけですが)のです。
ペピーノはヴィオレッタを
地下霊廟に導くことを成し遂げ、
ヴィオレッタは伝説の
聖フランチェスコの
聖なる遺物を発見します。
「小さな奇蹟」では
ペピーノの無垢なる願い、
そして諦めない努力、
それらが「奇蹟」を起こすことに
繋がっているのです。
「牝牛」は濃く良質な乳を
たくさん搾り出し、
チャンピオンの月桂冠を頭に戴きます。
「ルドミーラ」は「牝牛」の純粋な願い、
そして信じる気持ち、
それらが「奇蹟」を呼び起こしたのです。
「小さな奇蹟」はまさに
「天は自ら助くる者を助く」の
言葉があてはまります。
そして「ルドミーラ」は
「至誠天に通ず」ということでしょうか。
単なる童話として
かたづけるわけにはいかない
何かがあります。
私たちが生きる上で大切なものが
確かに示されていると感じます。
白雁の「スノーグース」、
驢馬の「小さな奇蹟」、
牝牛の「ルドミーラ」、
すべて「雪のひとひら」同様、
考えさせられる「童話」です。
大人のみなさん、いかがですか。
(2020.11.9)