「ぼく」が見た「夫婦の形」
「グッド・オールド・デイズ」(石井睦美)
(「それはまだヒミツ」今江祥智編)
新潮文庫
兄弟げんかがもとで家出をした
幼稚園児の「ぼく」。
向かった先は「おば」の家。
おばの電話で駆けつけた母は、
そのまま一晩、
おばに「ぼく」を預けてしまう。
以来、家で何か
もめごとが起きるたびに、
「ぼく」はおばの家に
居候をする…。
「ぼく」がその後も何かあるたびに
「おば」を当てにするのは、
子どものいないおば夫婦が
「ぼく」を可愛がってくれるからでは
ありません。
伯母はいたってドライなのです。
ではなぜ「ぼく」はおばの家に
安らぎを見いだしたのか?
「ぼく」の父親は、
会社勤めで家庭を振り返る
余裕も意識もない。
母親は4人の息子と夫を相手に、
家事に悪戦苦闘していて、
末っ子の「ぼく」に手をかける
余裕も意欲もない。
典型的な(と書いていいのかどうか
わかりませんが)
サラリーマン家庭なのです。
一方、おば夫婦は
子どもをあえてつくらなかった
二人だけの家庭。
しかし
いつも二人で楽しそうに生活し、
食事のときはテレビもつけずに
二人で楽しそうに会話しながら
ゆっくりとした時間を楽しむ。
そこに「ぼく」が加わっても、
無理に引き込むのでもなく
無視するのでもなく、
ほどよい距離を保っている。
「ぼく」の両親とは全く異なる
夫婦の在り方なのです。
「ぼく」にとっては
おばの見せた「夫婦の形」は
新鮮なものとして
捉えられたのだと思うのです。
どちらがいいという
問題ではありません。
子どもがいることには
意味があるでしょうし、
そのことによる幸せも大きいのです。
「ぼく」の両親の会話は少ないのですが、
それでも気持ちは
しっかり繋がっているということも
あるでしょう。
最後に、高校生になった「ぼく」の
恋人の口を借りて、
作者はこのように述べています。
「もし、世界中のひと全部が、
おばさんたちのように
結婚しても子供を持たず、
ただ愛し合うだけだったら、
この地球からはいつか
人が一人もいなくなっちゃうね」。
正しい形など有り得ないのです。
どのような夫婦の形を
創り上げるかは、
当然のことなのですが、
一人一人が考えた上で
決定することです。
何か事件が
起こるわけではありません。
「ぼく」が自分の父母と
「おば夫婦」を比べて、
家族(というよりも夫婦)の在り方を
考えた顛末を著した、
短いながらもぴりりと辛い
石井睦美の児童文学作品です。
※子どもをつくるつくらないを、
「生産性」の問題として捉える
国会議員を擁している私たちの国は、
何かが間違い始めているような
気がします。
〔本書収録作品一覧〕
グッド・オールド・デイズ 石井睦美
セカンド・ショット 川島誠
なんの話 岡田淳
亮太 江國香織
オーケストラの少年 阪田寛夫
先生の机 俵万智
いまとかあしたとか
さっきとかむかしとか 佐野洋子
二宮金太郎 今江祥智
ハードボイルド 長新太
主日に 長谷川集平
親指魚 山下明生
原っぱのリーダー 眉村卓
きみ知るやクサヤノヒモノ 上野瞭
ばく 夢枕獏
(2020.11.20)
【石井睦美の作品】