「時をかける少女」と同様、女の子が主人公
「悪夢の真相」「果てしなき多元宇宙」
(筒井康隆)(「時をかける少女」)
角川文庫
昌子は般若の面と
高いところに対して
異常な恐怖心を持っていた。
その原因はどうやら
忘れ去った過去にあるらしい。
彼女は同級生・文一とともに
自分がかつて住んでいた町を
訪れることを決意する。
その町で彼女を
待っていたのは…。
「悪夢の真相」
暢子は仲のよい史郎が、
隣町の不良高校生に絡まれても
全く怒りもせずに
冷静であることに
物足りなさを感じる。
その日の晩、
めまいを感じて暢子は気を失う。
彼女が気がついたとき、
周囲の様子は一変していた。
なんと文一が…。
「果てしなき多元宇宙」
SF小説は、もしかしたら
日持ちのしない文学なのかも
知れません。
鮮度が大切であり、
古くなると味わえなくなる。
賞味期限切れが早いのでしょう。
何せ現実世界がどんどん未来へと
進んでいくのですから。
その中にあって
本作品が収録されている本書
「時をかける少女」は
50年の時間を経ても
鮮度の全く落ちない希有な作品です。
1983年に原田知世主演で
映画化されましたが、
1997年、そして2010年にも映画化、
途中2006年にはアニメ映画化、
TVも含めると
都合9回の映像化を果たし、
書籍も今現在売れ続けている
息の長いSF作品です。
前置きが長くなりましたが、
この二作品は、「時をかける少女」に
併録されている短篇です。
こちらは今読むと
いささか鮮度が落ちているのですが、
当時の世の中の雰囲気がよく伝わる、
ノスタルジックな味わいを
見せています。
何よりも「男らしさ」という言葉が
目につきます。
「悪夢の真相」では、
女の子とままごと遊びばかりしている
弟の芳夫に、昌子も母親も
「男の子らしく」と迫ります。
「果てしなき多元宇宙」では、
不良学生にやられても
怒りすら見せない史郎に対して
暢子は不満を持ちます。
芳夫も史郎も
終盤では「男らしく」変容するのですが、
それが望ましい結果かどうかは
なんともいえません。
そして、「時をかける少女」と同様、こ
れらは女の子が主人公です。
「理系女子」が幅をきかせる
現代ならいざ知らず、
SFにおける女の子の主人公は
当時なら珍しかったはずです。
和子(時をかける少女)、昌子、暢子は、
当時の感覚からすると
「女の子」らしからぬ女の子であり、
その斬新さを作者・筒井康隆は
狙ったのではないかと思われます。
「男の子は男の子らしく、
女の子は女の子らしく」という考えが
一般的だった1960年代。
しかし筒井はその先、
つまりジェンダー・フリーの世の中の
到来を見越していたのかも知れません。
付録のように思われがちの
併録作品ですが、
味わう価値は十分にあります。
(2020.11.23)