世界文学の流れを俯瞰するための一冊
「要約世界文学全集Ⅰ」(木原武一)
新潮文庫
面白い本に
また出会うことができました。
世界の文学作品を一作13頁に要約し、
紹介してあるのです。
第1巻だけで31作品。
寝る前に一篇ずつ読み、
時間をかけてじっくり楽しみました。
味も素っ気もない
「あらすじ」ではありません。
作品中の主要な場面での情景や
人物の描写、そして
重要な鍵となる会話文まで収録され、
作品の味わいを
しっかりと保っています。
まさに文学のエッセンスを凝縮した
「要約」なのです。
すでに読んである作品は11
(それなりに読書している
つもりだったのですが、
まだまだだと思い知らされました)。
これらについては
かつて読んだときの感動を
再確認することができました。
「老人と海」「肉体の悪魔」
「ジーキル博士とハイド氏」
「車輪の下」などは
何度も読んでいたのですが、
改めてその面白さを思い出しました。
未読の作品については、
その多くに興味をかき立てられました。
「失われた時を求めて」「魔の山」
「北回帰線」等、
長編作品が多く、なかなか
手をつけられないでいるのですが、
いずれ挑戦したいと思います。
さて、本書の存在理由は何なのか?
「知ったかぶり」をしたがる人のための
「読んだ気になる」本でもなければ、
世界の名作についての知識を吸収する
自己啓発本の類いでもありません。
人間がいかに「人間の存在」について
考えてきたか。
古今東西の巨人たちが
血眼になって追い求めた
「人間の在り方」~それは
欲望と葛藤であり、
愛と憎悪であり、
社会の不条理であり、
人間存在の不確かさであり、
蔓延る人種差別であり、
性の在り方であり、
人としての尊厳であり、
運命とそれに抗う生であり~を、
一つ一つ丁寧に凝縮し、
箱に詰めたような趣が
本書にはあります。
本書は、世界文学の流れと
それに伴う「人間の在り方の追究」の
歴史を俯瞰するための本なのです。
ここに収められている
それぞれの「要約」は、
作品にまだ触れていない人にとっては
貴重な文学探訪の道しるべとなります。
そして
すでに読んでしまった人にとっても
作家との対話と自身の思索の
振り返りとなるに違いありません。
これから読書を
始めようと思っている方、そして
これまで十分に本を読んでこられた方、
そのすべてにお薦めできる一冊です。
※私はこれから第2巻を読み始めます。
※31篇の内訳を。
「ロリータ」
「老人と海」
「遠い声遠い部屋」
「ペスト」
「チボー家の人々」
「人間の大地」
「北回帰線」
「八月の光」
「ジョゼフ・フーシェ」
「チャタレイ夫人の恋人」
「失われた時を求めて」
「テレーズ・デスケイルゥ」
「偽金つかい」
「グレート・ギャツビー」
「魔の山」
「肉体の悪魔」
「月と六ペンス」
「審判」
「神々は渇く」
「O.ヘンリ短編集」
「マルテの手記」
「車輪の下」
「ヘンリ・ライクロフトの私記」
「ドリアン・グレイの肖像」
「クロイツェル・ソナタ」
「退屈な話」
「ジーキル博士とハイド氏」
「ハックルベリイ・フィンの冒険」
「女の一生」
「ナナ」
「アンナ・カレーニナ」
(2020.12.1)