「ある流刑地の話」(カフカ)

この不条理な世界から何を読み解くべきか?

「ある流刑地の話」
(カフカ/木野亨一訳)
(「ある流刑地の話」)角川文庫

「流刑地にて」(カフカ/柏原兵三訳)
(「集英社ギャラリー世界の文学12」)
 集英社

調査のために
流刑地に赴いた「旅行者」に、
「将校」は自慢の
処刑機械の説明を始める。
その機械は
囚人を固定する「寝台」、
囚人の体に判決文を
書き込むための「図案箱」、
それに取り付けられた
鋼鉄製の針「耙(まぐわ)」から
できていた…。

「変身」「城」などの
作品世界の異様さで有名な
カフカの短編小説です。
「変身」「城」同様、
日常とはかけ離れた
不条理な世界が展開しています。

まず、
問題の処刑機械がグロテスクです。
囚人を裸にして「寝台」に固定し、
「図案箱」と「寝台」がともに振動し、
12時間かけて「耙」で
囚人の体に判決文を書き込み、
じわじわとなぶりながら
処刑するのですから。
しかも囚人自身からよく見えるように、
「耙」の針はガラスに固定されている。
常軌を逸したマシンです。

次に、軍の組織構造が不可思議です。
囚人は不敬罪で起訴されたのですが、
その罪状は…、
中隊長の部屋の前で
時計が時を打つたびごとに
起立してドアの前に敬礼をする
義務があったにもかかわらず、
夜中の2時に
その職務を怠ったというもの。
この国の軍では、
一部の上官の権力と地位が
圧倒的であり、
一般兵の命など
紙切れ程度の軽さなのです。

さらに、裁判システムが理不尽です。
被疑者の聴取をまったく行わず、
上官の告訴のみでわずか一日で
判決から刑の執行まで突き進みます。
「被疑者を尋問しても
混乱を招くだけ」という
恐るべき思考です。

この不条理な世界から、
私たちは一体、何を読み解くべきか?
カフカの小説は
私たちの安易な解釈や理解を
一切拒んでいるかのように見えます。

村上春樹の「海辺のカフカ」に、
この機械についての記述が見られます。
「カフカは
 僕らの置かれている状況について
 説明しようとするよりは、
 むしろその複雑な機械のことを
 純粋に機械的に説明しようとする。
 つまり、
 そうすることによって彼は、
 僕らの置かれている状況を
 誰よりもありありと
 説明することができる。
 状況について語るんじゃなく、
 むしろ機械の細部について
 語ることで」

15歳の主人公田村カフカの台詞です。

村上春樹はこの殺人機械を
現代人の置かれている状況の暗示と
読み解いているのです。
それが果たして本当にカフカが
意図していたことなのかどうか、
判断できるほど私は
カフカの作品を読んではいません。
カフカの世界に精通できたとき、
初めて見えてくるものなのでしょう。

(2020.12.3)

【青空文庫】
「流刑地で」(カフカ/原田義人訳)
※翻訳者が異なります

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