この「謝罪」こそ、心の成長そのもの
「天のシーソー」(安東みきえ)
ポプラ文庫ピュアフル
些細なことで母親とけんかをし、
家を飛び出してしまったミオ。
彼女は子どもの頃から
かわいがってもらっている
五歳年上のサチエに
「目かくし道」をせがむ。
「目かくし道」を通ると、
「みんながやさしい、
いいおうち」に着くのだ…。
「ひとしずくの海」
ミオたち5人は、
マチンバと呼ばれる
おばあさんの家で
ピンポンダッシュを
繰り返していた。
ところがある日、
逃げようとしたときに
仲間のだいちゃんが転び、
玄関前の鉢植えを
なぎ倒してしまう。
みんなは構わず逃げるが、
ミオは…。
「マチンバ」
不祥事を起こした企業のトップが
深々と頭を下げる場面を
TV画面では見慣れてしまいました。
お決まりのポーズを見るにつけ、
本当の「謝罪」とは、
本書の主人公、小学校五年生の
少女・ミオの心の動きのことを
言うのではないかと、
つい思ってしまいます。
ミオは近所に住む五歳の純一、
三歳の翔と仲良くなる。
ある日、
二人が家に遊びに来たとき、
ミオは用事を抱えていたため、
明日遊ぶ約束をして
二人を追い返す。
その翌日、
ミオは彼らとの約束を忘れ、
買い物に出かけてしまう…。
「針せんぼん」
体調の悪い自分を気遣う
転校生の佐野に、
ミオは興味を持つ。
謎の多い佐野の家を
突き止めようという
友達とともに、
彼を尾行するミオ。
首尾よく彼の自宅を
探し出したのだが、
彼は自分の家の仕事を
秘密にしていたことを知り…。
「天のシーソー」
悪いことが続いた一日。
帰宅後にかかってきた
不審電話に脅されて、
ミオはクラス全員の
住所を教えてしまう。
あれほど担任の先生に
「知らない人に
教えてはいけない」と
言われていたのに。
自己嫌悪に陥った彼女が
外を歩いていると…。
「ラッキーデイ」
贈りものの箱の中身は、
二匹の生きた毛ガニだった。
妹のヒナコは
その毛ガニを飼いたいといい、
次には海に帰してやりたいと
どこまでも主張する。
そのヒナコが高熱を発し、
寝込んでしまう。
ミオは毛ガニを
海まで運ぶ決意をし…。
「毛ガニ」
「ひとしずくの海」では、
自分が悪かったということを
受け入れられずにいたミオです。
しかし「マチンバ」では、
おばあさんの大切にしていた
シクラメンの鉢を割ったことに対して
しっかりと罪悪感を持っています。
ピンポンダッシュは許されるが、
鉢を壊したことは
許されるものではない。
そんな彼女なりの倫理観にしたがって、
逃げずに大声で謝るのです。
「針せんぼん」では、
幼い兄弟が遠い道のりを
歩いてやってきたのに心を痛め、
雪混じりの風の中、
その道のりを歩き通そうとします。
「天のシーソー」では
佐野の触れられたくない部分に
踏み込んでしまったことを悔やみ、
「ゆるしてくれるって言うまで、
息をすわない」と自分を責めます。
「ラッキーデイ」で
耳の不自由なお兄さんと出会い、
ミオの頑なな心は氷解し、
「毛ガニ」では妹のために
ミオは大胆な行動に出ます。
このミオの「謝罪」こそ、
人としての心の成長
そのものだと思うのです。
自分の非を認め、素直に謝る。
大人でも難しい、
いや、大人だからこそ
難しいのかもしれません。
児童文学から大人が学ぶべきことは
たくさんあります。
(2020.12.11)