心が、四十年前にタイムスリップしてしまう
「さすらいの終幕」(眉村卓)
(「地球への遠い道」)角川文庫
隆の教室に突然現れた老人。
彼は数日前、二度にわたり
隆が助けた老人だった。
彼は隆の級友・英子こそ
自分の娘であり、
時間を超えて会いにきたのだと
主張するが、
英子はそれを否定する。
やがて謎の男たちが現れ、
老人を拘束し…。
学園ものSFジュヴナイルです。
文庫本にして90頁の中編ですが、
読みどころは活躍する
中学生3人・隆・英子・津川の魅力です。
この男子二人、女子一人という
男女の黄金比率が
効果的に作用しているのです。
本作品の読みどころ①
主人公・隆の行動力と爽やかさ
中学2年の柔道部員、主人公・隆の
行動力が素敵です。
謎の男たち(実は
タイムパトロール隊員)を
ひるむことなく柔道技で投げ飛ばす。
立場の弱い英子を
級友たちの避難から上手に庇う。
追われている老人に同情し、
家に招き入れる。
英子を守るために
タイムパトロール隊員たちに
敢然と立ち向かう。
主人公の行動力と爽やかさが
魅力的です。
本作品の読みどころ②
ヒロイン・英子の可愛らしさと謎
英子は人なつっこくかわいいという
ヒロインの要素を十分に持っています。
しかしなぜ老人が彼女を追い回すのか、
彼女の身のまわりには
謎が充ちています。
そして彼女は遅刻王。
遅刻が縁で隆と親しくなるのですが、
彼女の遅刻の謎は
最後まで解き明かされません
(単にだらしなかっただけなのか?)。
ヒロインの可愛らしさと謎が
魅力的です。
本作品の読みどころ③
サポート役・津川の明晰な頭脳
前半では
嫌みな学級委員長だった津川が、
隆と和解した後、魅力を発揮します。
タイムパトロール隊員たちが執拗に
老人を追い回して拘束する割には、
老人の脱走を二度まで許していることに
疑問を抱き、
名探偵のようにその推理を披露します。
サポート役・津川の明晰な頭脳が
魅力的です。
本作品は同じ中編SFジュヴナイル
「地球への遠い道」との
併録となっています。
表題作の方は未来の宇宙が舞台であり、
主人公への感情移入がしにくいのが
難点です(こちらも
読み応えのある作品なのですが)。
両者を比較すると、
本作品の方が作品に入り込めるのです。
SFジュヴナイルは
やはり学園ものに限ります。
遙か昔に処分してしまった
眉村卓の角川文庫作品を、
今、一つ一つ古書で集め直し、
再読しています。
そのたびに、心が、
四十年前にタイムスリップしたような
錯覚に襲われます。
(2020.12.27)