現代にも通じる鋭い設定が読みどころ
「地球への遠い道」(眉村卓)角川文庫
地球へと帰還する宇宙船には、
タダシをはじめとする
移民の子孫たちが乗っていた。
太陽系に入って間もなく、
宇宙船は謎の敵に襲撃され、
月面基地へと曳航される。
そこで待っていたのは、
冷たい微笑みを浮かべる
美少女だった…。
開拓の夢破れて地球へ帰還する
移民の子孫たちを待ち受けていたのは、
「人類」ではなかった。
敵の正体は宇宙人か?化け物か?
奇想天外な展開が始まるのかと
思いましたが、
筋書きは意外に理にかなっている
SFジュヴナイル作品です。
1970年には出版されていたのですから、
ちょうど50年前の作品です。
しかし現代にも通じる
鋭い設定がいくつか見られ、
それが読みどころとなっています。
現代に通じる鋭い設定①
敵の正体は「新人類」
宇宙人でも化け物でも
ありませんでした。
敵の正体は「人類」から
進化した存在である「新人類」
(作品中では「ミュータント」と
称されている)なのです。
新人類はテレパシーをはじめとする
旧人類にはない能力を持っていたため、
旧人類から恐れられ、
排除されたのですが、
圧倒的な科学技術により、
逆に旧人類を殲滅してしまったのです。
「ネアンデルタール人が、
おまえたちの直接の祖先の
クロマニヨン人に滅ぼされたのも…
その法則によるものだ」。
新人類と旧人類が出会ったときには
旧人類が淘汰されているという
歴史をひもとき、
筋書きに説得力を持たせています。
また、「新人類対旧人類」という構図は、
その後のアニメ「機動戦士ガンダム」でも
みられるものであり、
本作品の先見性が窺えます。
現代に通じる鋭い設定②
人類を絶滅させたのは「ウイルス」
旧人類を滅ぼしたのは
なんと人工的につくられた「ウイルス」。
旧人類の遺伝子のみに作用する
生物兵器です。
すべてを葬り去る
「大量破壊兵器」ではなく、
旧人類のみを根絶させる「ウイルス」。
この設定も、
東西冷戦時代に書かれた作品としては
斬新だと思うのです。
現代に通じる鋭い設定③
描かれているのは「分断」と「和解」
地球帰還を目指した人々は、
新人類の言い分に理解を示すタダシや
船長たち少数と、
新人類にあくまでも武力で抵抗を試みる
多数派へと分裂します。
わずか百名程度の
旧人類の生き残りたちが
主義主張の違いから「分断」される。
これも昨今の世界情勢に
何やら似ています。
しかし、最後はタダシと
新人類の美少女・セネアとの
信頼関係が鍵となり、新旧人類は
「和解」をしていくことになるのです。
科学技術が日進月歩する現代において
SF小説は賞味期限が
かなり短いものとなっています。
しかし良い作品は
決してその価値を失いません。
とはいえ本作品は当然絶版中であり、
忘れ去られようとしています。
眉村卓の名作SFジュヴナイル。
復刊してもらえないものでしょうか。
(2020.12.27)