TVで観た記憶は遠くに霞み…
「明日への追跡」(光瀬龍)角川文庫
「あいつの秘密を
ばらしたから殺される」。
基の同級生二人は、
そう言い残して死んだ。
転校生・竹下には
どんな秘密が隠されているのか?
一方、
もう一人の転校生・礼子もまた
奇妙な言動を繰り返す。
基と同級生・芙由子は
真相を探る…。
同級生二人の死の真相を探るため、
基・芙由子、そして西田・田島・松宮の
五人が謎の究明にあたる、
光瀬龍の傑作SFジュブナイルです。
1976年に、
NHKの「少年ドラマシリーズ」として
映像化された傑作であり、
四十数年ぶりで再読しました。
本作品の読みどころ①
中学生たちが謎を追う
ジュブナイルの醍醐味は
主役の少年少女の活躍です。
本作品では行動的な主人公・基と
秀才・美人・活動的と三拍子揃った
ヒロイン・芙由子を軸に、
西田・田島・松宮の
五人のグループ行動です。
これがまたスリルがあります。
謎の校舎火災で重傷を負う基、
敵の罠に落ちて拉致される芙由子と、
主人公二人の受難は
やや度を超している感があります。
また、同級生二人が殺害され、
学校が半焼するなど、
ジュヴナイルにしては
ショッキングすぎる展開が
連続するのですが、
それは大人の感覚かも知れません。
子どもの頃、
そこにわくわくしていたのですから。
本作品の読みどころ②
敵は竹下か?礼子か?
基は竹下と友情を結び、
芙由子は礼子と距離をとりながらも
親しくし、その中で疑いの目を
向けなければならないのです。
敵はどちらか?
序盤では圧倒的に
竹下が怪しいのですが、
礼子の秘密も次第に明らかになります。
本作品の読みどころ③
敵の正体は?敵の狙いは?
礼子には何者かが
乗り移っているらしいし、
竹下は周囲の人間を
操っている疑いがある。
敵の正体は一体?宇宙人?
未知の生命体?
そして竹下は礼子を追って
転校を繰り返していることが判明。
さらに二人は
ある「金属の缶」を探していて、
それを基が所有していると考えている。
それは一体?
そしてそれぞれの狙いは?
多くの謎が解明されないまま、
物語は幕を閉じます。
それは決して
中途半端に終わっているのではなく、
五人の行動が結果的に敵を
追い詰めたことによるものなのです。
そしてそれは大きな冒険を終えた感覚を
読み手にしっかりと与えてくれます。
TVで観た記憶は遠くに霞み、
断片的でしかないのですが、
再読し、そのとき感じた興奮を
呼び起こすことができました。
残念ながら本作品も絶版中であり、
古書も流通量が少ないせいか割高です。
こうした作品はもはや電子書籍でしか
存在できない可能性があります。
その意味でも貴重な一冊です。
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(2020.12.28)
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