誰かに話さずにはいられない作品
「旅猫リポート」(有川浩)講談社文庫

瀕死の野良猫・ナナを助け、
一緒に暮らし始めて五年。
サトルはある事情から
ナナを手放すことを決意する。
ナナを引き取ってくれる
相手を探すため、
かつてのかけがえのない
友人たちを訪れる。
「僕の猫を
もらってくれませんか」と…。
読み終えて
涙を乾かしているところです。
涙が止まらなくて
仕方ありませんでした。
よかった、書斎で読んでいて。
居間で読んでいたら
家族に変な目で見られるところでした。
そして困りました。
何を書けばいいのか。
ネタバレさせてしまうと
いけない類いの作品です。
かといって、
内容の素晴らしさを誰かに話さずには
いられない作品でもあるのです。
表題通り、主人・サトルとともに
旅をする猫・ナナが、
その過程をリポートしたような
作品です。
ではその旅とはどんなものだったのか?
それこそが本作品の肝であるため、
詳しいことは書きません。
サトルはナナを引き取ってくれそうな
相手として選んだ
四人の友人たちのもとを訪ねるのです。
一人は小学校の時の
幼馴染み・コースケ、
一人は中学校での
親友とも呼べる存在のヨシミネ、
そして高校・大学時代の友人・
スギとチカコ。
本作品の素晴らしさは、サトルが、
訪れた先の友人それぞれのとの
過去を振り返り、それぞれが
その時点から抱えていたものを、
優しく溶かして帰って行くという
筋書きにあります。
それぞれがサトルとの再会に、
心を癒やされていくのです。
もう一つの素晴らしさは、
すべてを見通しているナナが、
主人・サトルの意をくみ、
上手に立ち回っている愛らしさです。
コースケの家では
ケージから一歩も出ようとせず、
ヨシミネ宅では
先客の臆病な若猫・チャトランを
けしかけて
敵対しているように見せかけ、
スギ・チカコ夫妻のペンションでは
飼い犬・トラマルと一戦交え、
自分の身が譲渡されるのを
明確に拒んでいるのです。
そしてそれが旅の本当の理由を、
読み手にさりげなく伝える結果と
なっているのです。
読み進めるうちに、
筋書きはなんとなく見えてきます。
しかし読み手の予想を超える
「泣きのツボ」が幾重にも張り巡らされ、
涙はとどめようもなく、
また乾いてもすぐ涙腺が緩んでくる
仕組みになっているのです。
映画化もされていますが、
それは見ないことにしています。
この感動は、読んで味わうべきものだと
思うからです。
中学生をはじめ、
多くの方にお薦めしたい一冊です。
※例によって、話題になっている間は
あえて読みませんでした。
ブームがすぎてから読んだ方が、
作品の本当に価値に
気づけそうな気がするのです。
(2021.1.3)
