「百年文庫096 純」

「純」なものをしっかりと受け止めて欲しい

「百年文庫096 純」ポプラ社

「馬鹿一 武者小路実篤」
石や草ばかりを描く
画家の馬鹿一。
自己流で稚拙ではあるが、
どこまでも誠実な人柄が
滲み出ているため、
彼の描く絵は
心ある人の観る眼を引きつける。
彼は周囲の友人に
馬鹿にされようとも、
ひたすら信念に基づいて
描き続ける…。

百年文庫・本書のテーマは「純」。
本当に「純」です、純粋です。
混じりけの多いものばかりの
昨今ですが、
古き良き時代の「純」な作品三篇です。

「山の雪 高村光太郎」
わたしは日本の北の方、岩手県の
山の中にすんでいるので、
十一月ごろからそろそろ
雪のふるのを見ることができ、
十二月末にはもういちめんに
まっしろになったけしきを
まいにち見る。
このへんでは、
平均一メートルくらいしか…。

武者小路実篤の描く馬鹿一は
「馬鹿」がつくくらい正直です。
「純」なのです。
高村光太郎の随筆は雪景色を
極めて美しく描出しています。
「純」なのです。
宇野千代は実話をもとに、
奥ゆかしい人々の物語を
紡ぎ上げました。
やはり「純」なのです。

「八重山の雪 宇野千代」
信吉への嫁入りが
決まった「私」は、
正式な夫婦になるまでの半年間、
彼の家に住み、
酒屋の手伝いをしていた。
ある日、英国の
若い海兵・ジョージが来店し、
ウィスキーを買っていった。
ジョージはその後一月、
毎日のように店を訪れ…。

こと文学の世界は
「純」でないものばかりが
好まれる傾向にあります。
この百年文庫においても、
漢字一文字のテーマを見ていくと、
「闇」「罪」「妖」「異」「影」
「黒」「嘘」「冥」「幽」「怪」…、と
「純」でないものの方が
むしろ多いのです
(私も決して嫌いではないのですが)。

しかし、これからの時代を
生きる人たちには
「純」なものをしっかりと
受け止めて欲しいと願うのです。
「本当か?」と疑うのではなく、
「有り得ないだろ」と笑うのでもなく、
「建前だろ」と否定するのでもなく、
私たちの人生には
確かに「純」なものが存在するのだと
信じられるようになって欲しいのです。

残念なことに、三人の著者の作品は、
その多くが優れた文芸性を
有しているにもかかわらず、
書店の本棚からは
姿を消してしまいました。
再発掘・再評価を
願わずにはいられません。

(2021.1.26)

Arek SochaによるPixabayからの画像

【青空文庫】
「山の雪」(高村光太郎)

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