二つの「運命の転換点」
「更生の再生」(O.ヘンリー/小川高義訳)
(「O.ヘンリー傑作選Ⅱ」)新潮文庫
「甦った改心」(O.ヘンリー/芹澤恵訳)
(「1ドルの価値/賢者の贈り物 他21編」)
光文社古典新訳文庫
エルモア銀行頭取の娘と
婚約したスペンサーは、
元金庫破り師で、
移り住む前には
三件の事件を起こしていた。
スペンサーを追ってやってきた
刑事・ベンの眼前で、
銀行の新型金庫に
女の子が閉じ込められてしまう。
スペンサーは…。
スペンサーの本名は
ジム・ヴァレンタイン。
若くして凄腕の金庫破りでした。
彼がエルモアの地で出会った女性が
銀行頭取の娘・アナベルであり、
頭取アダムズが
新型金庫を説明している最中に、
アナベルの姉の娘が遊んでいて
閉じ込められたという顛末です。
運命の転換点というのは
どこに転がっているのかわかりません。
スペンサーの転換点の一つは
間違いなく、
転々と逃亡している先の一つ
エルモアで、一人の女性・アナベルと
出会ったことでしょう。
一目惚れした彼はその地に定住し、
靴屋を開業し、成功を収めます。
その上で彼女と接触し、
持ち前の社交性を発揮して
僅か一年の間に
婚約までこぎ着けるのです。
犯罪とはいえ
プロフェッショナルとしての腕を
獲得した男が、足を洗って
自分の商売道具(金庫破りの道具一式)を
仲間に譲る覚悟までしたのですから、
その決意は並大抵ではないはずです。
もう一つの転換点が
この日だったのでしょう。
何事も起きなければ、
あるいは彼が女の子を見捨てていれば、
彼は張り込んでいたベンに
拘束されていたでしょう。
その運命を変えたのも
やはり彼の決断だったのです。
筋書きのその後は
想像がつくかと思われます。
スペンサーは
ジム・ヴァレンタインに戻り、
譲り渡すために持参していた
自分の道具を並べ、
新型金庫を事もなげに破り、
女の子を救出します。
最後には当然
「泣きのツボ」が仕組まれてあります。
「やあ、ベンじゃないか。
とうとう突き止められたか。
まあ、いいさ、行くよ。
いまとなっちゃ、どうでもいいんだ」
「おや、勘違いじゃないですか、
スペンサーさん。
といって見覚えもない人だ。」
原題が「A Retrieved Reformation」、
長らくは邦題「よみがえった改心」で
親しまれてきた
本作品の筋書きの骨格は、
映画やドラマ、様々に
流用されてきました。
その本家本元がここにあります。
ぜひご一読を。
※逮捕を免れたスペンサーが、
予定通りアナベルと
結婚したのかどうか、
考えてみると疑問が生じます。
孫娘を救出してもらったとはいえ、
明らかに金庫破りの
経歴の持ち主が、
銀行家の娘婿として
迎え入れられるのか?
その後のストーリーを考えても
一つの作品になりそうです。
(2021.2.2)