よく見るといろいろなことに気付かされます
「あいうえおの本」(安野光雅)
福音館書店
安野光雅のイラストが大好きです。
近年、新潮文庫の夏目漱石
全17冊の表紙装丁画が
安野光雅で統一されましたので、
すべて買い直しました。
さて、こちらは
前任校の図書室で見つけた一冊です。
安野の初期の作品です。
1976年発行とありますので、
今から四十数年前に
出版された絵本です。
今の画風とは異なり、
極めて写実風なのですが、
それでいてやはり
温かみのある絵が並んでいます。
見開きの左頁には
木でこしらえたひらがな一文字、
右頁にはその文字から始まるものが
描かれています。
ぱらぱらとめくっていると、
それだけで楽しくなります。
でも、よく見ると、
いろいろなことに気付かされます。
まず左頁のひらがな。
文字を単に立体的に描いているだけでは
ありません。
木目の美しさが引き立つような
描き方をしているのです。
そして、
木を曲げたり削ったり
穴を開けて組み込んだり
釘を打ちつけたり、
工具類を総動員して
創り上げたかのような技法が
一つ一つの文字に見られます。
さらに「さ」だけは
桜の木を使っているという
念の入れよう。
そして右頁の絵。
中央の大きな画だけを
最初は観ていました。
しかし、注目すべきは
その周囲の絵飾りです。
その文字から始まるものが、
いたる所に隠れているのです。
それを見つける楽しさ!
ちなみに「ら」であれば、
ライオン、ラッパ、らっきょう、
ランプ、ランドセル、
らいちょうが隠れています
(丁寧なことに
巻末に「手引き」が載っていて、
それによると「らしょうもんかずら」も
描かれているとのこと。
そういう植物自体知りませんでした)。
一人で十分楽しみました。
でも、この本は
一人で楽しむものではなく、
親子で楽しむべきものです。
子どもが小さい頃、私は
盛んと読み聞かせをしていました。
そのときにこの本を
子どもと一緒に楽しみたかった。
失敗しました。
出会うのが20年遅すぎました。
小さいお子さんをおもちのあなた、
本書を親子で楽しんでみませんか。
※敬愛してやまない安野光雅氏が、
昨年の十二月二十四日未明に、
永眠されました。
コロナ渦でサンタクロースも
人手不足の折だったでしょうから、
神さまに急遽その役を
依頼されたのだろうと思います。
心が癒やされる絵本を創作し続けた
氏にとっては
お似合いの役ではなかったかと
思われます。
ご冥福をお祈りいたします。
合掌。
(2021.2.5)