「美女と野獣」(ボーモン夫人)

神様のような「王子」と人間くさい「仙女」

「美女と野獣」(ボーモン夫人)
 新潮文庫

愛する父親の代わりに
自分の命を差し出そうと、
ベルは野獣の住む
宮殿へと向かう。野獣は、
ベルを取って食おうとはせず、
彼女の食事を
ただじっと見守るだけだった。
そしてそのたびに
「私の妻になりたくはないか」と
尋ねてくる…。

ディズニー映画で、そして昔話として
広く知られている「美女と野獣」。
しかしその原作本を読んだ方は
決して多くはないと思います。
作者はボーモン夫人。
フランスの童話作家です。
本書は「美女と野獣」をはじめとする、
彼女の童話13篇を収録したものです。
まずは収録作品一覧をどうぞ。

【収録作品一覧】
「シェリー王子の物語」
「美女と野獣」
「ファタル王子と
  フォルチュネ王子の物語」
「シャルマン王の物語」
「寡婦とふたりの娘の物語」
「デジール王子」
「オロールとエーメ」
「三つの願いの物語」
「漁師と旅人」
「ジョリエット」
「ティティ王子」
「スピリチュエル王子」
「きれいな娘と醜い娘」

読み終えて気付くのは、
「仙女」と「王子」が登場するという
共通点です。
「仙女」はすべての作品に、
そして「王子」は「三つの願いの物語」
「漁師と旅人」以外のすべてに
登場しています。

もちろん西洋の童話には
王子さまはつきものです。
本作品の多くに王子さまが登場するのは
むしろ当然でしょう。
でも、その王子さまが皆、
聖人君子ともいうべき
完璧な性格の持ち主なのです
(一部には性格の歪んだ王子も
登場するのですが)。
たとえどのような境遇に陥ろうとも
神への感謝、そして
周囲の人間への感謝を忘れず、
自分に非道を働いた人間でさえも
決して恨むことなく赦しを与える。
あらゆる面で規範とされるべき
「王子」が何人も登場するのです。

その一方で、仙女の方の性格は、
必ずしも完璧とはいえない部分が
見え隠れします。
多くの仙女が王子や娘の
「誠実さ」を試すための罠ともいえる
仕掛けを講じているのですが、
そのようなことは「誠実な」仙女の
するべきことではないでしょう。

さらには
根っからの悪者「仙女」も登場し、
人間に身勝手ともいえる
呪いをかけたりしています。
「美女と野獣」の王子さまを
野獣の姿に変えたのも
悪い仙女の仕業です。

しかも仙女には「階層」があり、
序列に従って行動しています。
「ジョリエット」には
徳のある上位の仙女が、
下位の仙女の思慮の浅い行為を
叱り飛ばす場面まで描かれています。

誠実とはいえない行動、
善と悪の対立、
身分の階層構造、
この「仙女」たちの社会は、
驚くほど人間くさく
出来上がっているのです。
「仙女」という響きからは
「妖精」か何かのような
雰囲気が感じられるのですが、
人間の運命すら司っているのですから
紛れもなく「神様」なのでしょう。
そういえばギリシャ神話の神々も
人間的な痴話喧嘩を繰り返しています。

神様のような完全無比の王子と
やたら人間くさい仙女の織りなす童話。
どう読み解くべきか?
そんな難しいことなど考えず、
18世紀の西洋の童話世界を
子どものような純真な心で
堪能すべきなのでしょう。

※「美女と野獣」についての
 ボーモン版とヴィルヌーヴ版の
 違いについて詳しく述べている
 訳者解説も読み応えがあります。

(2021.2.8)

PrawnyによるPixabayからの画像

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