双子ダンサー探偵、軽いノリ
「双生児は踊る」(橫溝正史)
(「ペルシャ猫を抱く女」)角川文庫
(「横溝正史ミステリ
短篇コレクション③」)柏書房
二人組の強盗殺人犯は、
工事中のキャバレーへ
逃げ込むものの、
なぜか二人はその中で
銃で撃たれて倒れていた。
一人は死亡、もう一人は
記憶を喪失しながらも、
暗闇の中の猫に怯える。
強奪された金の行方は
未だに分からなかった…。
以前取り上げた
横溝正史の金田一耕助シリーズ作品
「暗闇の中の猫」(1956年)と同じ粗筋を
載せてしまいました。
なぜなら両作品の骨格はほとんど同じ、
こちらが原形作品(1947年発表)です。
〔主要登場人物〕
高柳信吉
…銀行強盗犯容疑者。元行員。死亡。
佐伯徹也
…銀行強盗犯容疑者。元行員。
撃たれて記憶喪失。
その後、殺害される。
日置重介
…襲撃された銀行の支店長。
寺田
…キャバレー「ランターン」経営者。
雪枝
…「ランターン」マダム。寺田の愛人。
地下室で殺害される。
亀田
…「ランターン」用心棒。
江口緋紗子
…「ランターン」シンガー。
天運堂
…「ランターン」前の路上で開業している
易者。地下室で殺害される。
等々力警部
…警視庁捜査一課警部。
須藤刑事
…等々力警部の部下。
星野夏彦
…「ランターン」の双子ダンサー。
色が白い。
星野冬彦
…「ランターン」の双子ダンサー。
色が黒い。
橫溝正史は改稿癖があり、多くの作品を
ヴァージョン・アップさせています。
当然、改稿後の作品の方が
完成度が高くなっているのですが、
本作品の場合は
そうとは言い切れません。
「暗闇の猫」以上の面白さ、
それがそのまま本作品の
味わいどころとなっているのです。
本作品の味わいどころ①
双子ダンサー探偵、軽いノリ
改稿作品は金田一耕助シリーズとして
編まれましたが、
原形作品には金田一は登場しません。
そのかわり、金田一と同等、
もしくはそれ以上の異彩を放つ
素人探偵が登場します。
それが星野夏彦・冬彦のツインズ探偵。
もしくはタップダンス探偵。
キャバレーのダンサーであるものの、
事件に首を突っ込み、
等々力警部に事件解明の鍵を
次々に示唆していくのです。
しかも「教える」というよりも
「つぶやく」。
昭和22年の段階ですでに
「ツイート」しているのです。
ダンスにツイート、
この軽いノリが最高です。
本作品の味わいどころ②
警察監視下での三重殺人事件
改稿作品では、
「ランターン」内での殺人は、
佐伯誠也の射殺と伊東雪枝の毒殺の
二件でしたが、
本作品ではその二人(雪枝は絞殺に
変更されている)のほかに、
易者・天運堂まで殺害されています
(改稿作品では、
天運堂は金田一の変装であり、
したがって殺害されない)。
原形作品の方が
事件の規模はより大きいのです。
本作品の等々力警部が
金田一シリーズの等々力警部と
同一人物かどうか不明ですが、
警察の監視下において
三名もの犠牲者が出たとすれば、
いかに殺伐な時代であったにしても
厳しく責任を問われたはずです。
派手な三重殺人事件で、
筋書きは十分に盛り上がったのですが、
この等々力警部、
このあと大丈夫だったのかと、
いささか心配になります。
本作品の味わいどころ③
自然な犯人像、派手な幕切れ
改稿作品は、
ひねりをきかせすぎたせいか、
犯人の設定に今ひとつ不自然さが
生じてしまっていたのですが、
本作品の設定は無理がありません。
しかも最後は大捕物に加え、
隠されていた札束が宙に舞うなど
大盤振る舞い。
原形作品の方が、エンディングが
派手になっているのです。
もしかしたら
「金田一ものを書いてくれ」と
出版社から申し込みが殺到し、
橫溝は仕方なく
ノン・シリーズ作品をピックアップして
金田一ものへと
改稿していったのかもしれません。
金田一シリーズが充実したのは
喜ばしいことですが、
中には本作品のように、
原形の魅力がそがれてしまった例も
あります。
やはり両方愉しむべきです。
「暗闇の中の猫」と「双生児は踊る」は
まったく別ものと、割り切って考え、
両方愉しみましょう。
なお、この双子探偵は、
「双生児は囁く」にも登場しています。
こんな魅力ある探偵が、
二作品で終わってしまい、
そのどちらも改稿されてしまった
(「双生児は囁く」は最終的には
「スペードの女王」へと改稿)ことは
残念です。
シリーズ化されていたら、
現代でも十分通用するモダンな探偵像と
なっていたのではないでしょうか。
(2021.2.16)
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(2024.8.21)
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